□特別な贈り物
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「懲りないね、君も」

 ペシリと封筒が少女の額に当たった。
 並盛中応接室。この部屋の主である雲雀恭弥は、目の前で縮こまっている小柄な少女、沢田綱吉が持ってきたクリスマスパーティーの招待状とやらを突っ返した。
「や…懲りないのは俺じゃなくて…ですね…リボーンで…」
 ごにょごにょと言い訳をする。しかし実際、招待状を雲雀に持っていけと言ったのは黒衣の赤ん坊、綱吉の家庭教師リボーンであり、自分と綱吉の合同誕生日パーティーの招待状を持っていけと行かせたのもこの赤ん坊であった。
 綱吉はチラリと雲雀を見ると、諦めたようにこっそりと溜め息を吐いた。
「あの、すみません。お邪魔しました…」
 まるで数ヶ月前の再現のように、綱吉は応接室を出ようとドアを開けた。

「う…わ?」
「おっと…」

 ドアの前には今正に、ノックをしようとしていた大柄な人影が立っていた。
 副委員長の草壁哲矢だ。
「あ、あの、すみません。失礼します!」
 ぺこりとお辞儀をひとつして、綱吉は草壁の脇をすり抜けるように応接室を出て足早に去って行く。草壁はその姿を暫く見送り、雲雀に向き直る。
「何かありましたか?」
 雲雀は不機嫌な様子で、何も…とだけ言った。
「そうですか…しかし、彼女は泣きそうな顔をしていましたが…」
 泣きそうと聞いて、雲雀はピクリと反応する。不機嫌さは増し、言い訳のように呟いた。

「あの子が悪いんだよ…その他大勢と一緒にするから…」

 草壁はやれやれと首を振る。
 彼の上司であるこの委員長様はどうやらあの少女、沢田綱吉に恋をしているらしい。いつからなのか、どうしてあの少女だったのか…そういった詳しいことは草壁にも分からなかったが、ただ、雲雀の好意はとても分かり難かった。
「委員長…あまり邪険にすると嫌われますよ」
 持ってきた書類を手渡しながら言うと、雲雀は益々不機嫌になって草壁を睨む。これ以上は危険と感じた彼は用をすませると、さっさと退散してしまった。
 独りになった応接室で雲雀は読みかけの書類を机に放り投げた。
 嫌われますよ…
 草壁の言葉が頭をよぎる。それでもほかの輩と同列に扱われることが嫌だった。
 そうは思っても、自分の前では俯き加減でガチガチに固まって緊張する綱吉を、雲雀はどうして良いのか分からない。つい、冷たくあしらってしまったりする。

「僕は、あの子の特別が欲しいんだ」

 応接室に自分の声だけが虚しく響き、雲雀はらしくないと苦笑した。





 そしてクリスマス間近、しかしその前に並盛中は終業式だ。明日から冬休みの生徒達は浮き足立っていて、終業式が終わっても明日からの予定で盛り上がる。雲雀はそんな浮かれた生徒達を咬み殺…もとい、取り締まるために校内を見回っていた。

「ねぇ、それ…家に帰ってからやったら?」
「ダメ!家だとチビどもにじゃまされる」
「大変だね…でも、もうちょっとだよ、がんばって、ツナ君!」

 教室から聞こえてきた女生徒の声に、雲雀は足を止める。
 聞き覚えのある声。ツナという愛称。
 再び足を進め、中の様子を窺うとそこにはやはり綱吉がいた。仲の良い友人二人と何やらやっている。いや、よく見れば、必死にそれをやっているのは綱吉だけだ。
 長い二本の棒とふわりとした毛糸玉、何かを編んでいるようだった。その形状からしてマフラーであろう。しかし雲雀が一番気になったのは、その色合いがどう見ても女物には見えないことだ。

「沢田もがんばるよね。不器用なのに何ヶ月も前から…」
「うん、でもずいぶん上手くなったし、これならクリスマスに間に合うね!」
 綱吉が手を止める。ほんのりと頬を染め、小さくこくりと頷いた。

 雲雀は踵を返すとその場を立ち去った。胃の辺りがムカムカとする。酷い気分だ。
 あのマフラー、あれには雲雀が欲しかった「特別」が込められているのだろう。そのマフラーを誰かがしているところを見てしまったら…
 胃が更にむかつきを増す。胸の奥がチリチリと痛む。
 見てしまったら、自分はその人物を咬み殺さずにはいられないだろうと雲雀は感じた。

 たとえ、それで綱吉に嫌われることになってしまっても…





 それから数日。雲雀は綱吉の編んでいたマフラーのことが頭から離れず、凄まじく不機嫌だった。草壁ですら迂闊に近つけず、風紀委員達にはなす術もない。とにかく、その不機嫌さが自分へと向かわないことをひたすら祈った。
 そして盛り上がるイブとは違い、比較的落ち着きを見せるクリスマス当日。雲雀は校内を歩く。学校が休みに入っても、風紀の仕事は終わってはいない。不機嫌でも一通りの仕事はこなす。それは、この唯我独尊、傍若無人な雲雀に風紀委員達が付いて行く理由のひとつだろう。
 雲雀は応接室のある廊下の角を曲がる。すると、部屋の前に人が立っているのが見えた。
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