□whitekiss
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 秋が深まり、日に日に寒さが増して行く。そろそろ冬と呼んでも良いのではないかという変わり目の季節、彼女は真冬に行われるソレの話を切り出した。

「京子ちゃん、黒川、冬休みになったら一緒にスキーに行かない?」

 昼休み、沢田綱吉、笹川京子、黒川花の三人は仲良くお弁当を囲んでいた。
 スキーに誘われた京子と花は一度顔を見合わせ、誘った綱吉に視線を戻す。
「ツナ君、それって、前に雲雀さんと約束してた?」
「うん」
 雲雀と聞いて、綱吉の頬がほんのり桜色に染まる。かの並盛最強の風紀委員長様とダメツナとまで言われていた綱吉が付き合っていることは、異色のカップルとして、既に校内では有名になっていた。
 最も、二人が付き合うまでの紆余曲折は、この二人の友人と苦労性な雲雀の部下しか知らないだろう。そもそもスキーの約束も、実はとんでもなく照れ屋でヘタレな一面を持っていた雲雀が「好き」と言う言葉が言えなくて出たものだ。
「なによ。ラブラブバカップルのスキー旅行に付き合えって?」
「バ、バカップルじゃないよ!」
「へぇ、ラブラブは否定しないのね」
 ニヤリと笑う花に、からかわれているのだと解っていても綱吉は真っ赤になってしまう。こういうところは雲雀と付き合う前から変わっていない。
「えーと、だから、その…あーもうっ…」
 ラブラブとかバカップルは置いといて…と、綱吉はスキーに誘った理由を説明する。
「俺も雲雀さんもまだ中学生だし、その…流石に母さんがね、心配するから友達を何人か誘った方がいいかなって…」
 しかし、なにせ相手は群れるのが嫌いなあの雲雀。滅多な人間は誘えない。
「黒川と京子ちゃんなら母さんも信頼してるし、雲雀さんも、二人だったらいいよって言ってくれたし、俺もね、二人が一緒だったら楽しいから…」
 どうかな?と綱吉は改めて聞く。
「ツナ君とスキーに行けるのは嬉しいけど…私も花も中学生なのは変わらないよ。やっぱり保護者は必要なんじゃないかな?」
 京子の疑問はもっともで、花も頷いて同意する。しかし綱吉は、自信満々の笑顔で言った。

「それだったら、草壁さんが一緒だから大丈夫だよ!」

 京子がああ、と言ってパシリと手を合わせ、花は頷きかけて、ん?と眉を寄せた。
「じゃあ大丈夫だね!」
「うん、一緒に行ってくれるかな?」
「もちろん、スキー楽しみだね!」
 疑問が晴れて快諾した京子と、そのことが嬉しい綱吉。どこに行くの?とか何日間になるの?とか、話を進める二人を花がちょっと、と止める。
「あ、ゴメン黒川。京子ちゃんが行くから黒川も行くと思っちゃって…ダメ…かな?」
「行こうよ、花。楽しそうだよ」
「や、じゃなくて…」
 問題は行くとか行かないではないのだが、期待を込めた二対のキラキラとした瞳に、花は圧される。
「う、もちろん、行くわよ」
 言いたかったこととは別の返事をしてしまった。

 草壁哲矢、保護者として名前が挙がった彼は雲雀の腹心の部下であり、雲雀と綱吉が付き合うにあたって色々と骨を折った人物だ。確かにしっかり者だろう。風貌からしても保護者であることは可笑しな話ではない。だが、草壁は綱吉達と一つしか変わらない。要するに彼もまた、まだ中学生なのだ。

 嬉しそうにスキーの予定を話し合う友人二人に、花はまあいいか…とその事実を呑み込んだ。





「笹川京子と黒川花も行くそうですね」
「うん、二人追加で手配しておいて」
「承知しました…良かったですね」
 応接室で書類整理をしながら草壁に指示をだしていた雲雀は、良かったですねの一言に眉を寄せた。
「良くない。本当なら群れるのなんて嫌なんだ」
「しかし沢田の親御さんの許可を得るためには…」
「分かっている」
 スキー自体は雲雀が好きだと言えずに突発的にでてしまった言葉だが、綱吉は行くことを楽しみにしていた。必ず連れて行きたいと思っている。何より、雲雀にはこのスキー旅行での目標があった。
 綱吉と付き合い始めてから数ヶ月。手を繋ぐのにはお互い慣れてきた。そろそろ次の段階に進んで良い頃だろう。
 次、そう次は…

 綱吉とキスがしたい!

 大きいのか小さいのか…とりあえず、意外にも中学生らしい目標ではある。
 草壁はそんな雲雀を静かに見守る。彼としても雲雀のこの密やかな目標が、達成されることを望んでいた。そうでなければ、没収した少女漫画のキスシーンを、穴が空くのではないかと思える程の鋭い視線で凝視する風紀委員長様という、いろんな意味で怖い光景に出くわすこともなくなるからだ。
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