□小さな贈り物
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「あ、あの、コレっ…」

 放課後の応接室、少女が少年に白い封筒を差し出す…普通ならば、封筒は恋文であり、それは少女漫画のような愛の告白の一場面…なのだろうが…
 受け取る少年の笑顔は甘いものではなく、寧ろ凶暴さに満ちていた。

「何、果たし状?」

 嬉しそうに物騒なことを言ってくれる少年に、少女は真っ青になり慌てて否定した。
「ち、違います!これは、リ、リボーンが…」
「ああ、赤ん坊からの果たし状」
「ちっがぁう!!」
 リボーンと聞いて益々嬉しそうな、どうしても危険な思考から離れない並盛最強の風紀委員長、雲雀恭弥を前に、自他共に認めるダメツナこと沢田綱吉は、半泣きになりながら封筒の説明を必死にした。

「招待状?」
「はい」
 なんとか果たし状ではないことを分かって貰い、ホッとした綱吉が今度は落ち着いて事情の説明をする。
「今度の十三日にリボーンと俺の誕生日パーティーをするんで、リボーンが雲雀さんにも渡してこいって…」
「ふぅん、君、赤ん坊と誕生日一緒なの?」
「いえ、俺は十四日なんですけど…一日違いだし、一緒にやっちゃうんです」
 一緒にされてしまうのはちょっと寂しいが、一日違いでは仕方ない。それに、リボーンが来る前は祝ってくれる友達すらいなかったことを思えば、一日前でも誕生日パーティーを開いて貰えるなんて夢のよう話だ。
「あの…多分、大したことはやらないと思うんですが…よければ…」
 来て下さい。と言おうとした綱吉の額に、ペシリと封筒があたる。
「いらない。興味ないから」
 素っ気なく返された招待状を受け取って、綱吉はそうですよねぇ…と力無く笑った。群れを嫌う雲雀がこういった集まりに参加する訳がない。分かってはいたのだが…
「すみません。お邪魔しました…」
 ペコリと頭を下げて、綱吉は足早に応接室を出た。
 パタパタと遠くなって行く足音。
 雲雀はそれを静かに聞いていた。





 応接室を出た後、綱吉は廊下をトボトボと歩いていた。
 突っ返された招待状に目を落とし、何度目かになる溜め息を吐く。
「やっぱり、ダメだったか…」
 ポツリと呟いた。
「リボーンの招待ならもしかして…って思ったんだけどなぁ…」
 招待状を渡してこいと言ったのは、確かにリボーンだ。しかし綱吉もほんの少しだけ期待していた。
 たとえ、ついでやオマケでも、好きな人に誕生日を祝って貰えるかもしれない…と。
 厄介な人を好きになったものだと、綱吉自身痛感している。あの雲雀が、草食動物そのもののような自分に興味を持つ訳がない。
 綱吉は招待状を見詰める。
「…でも、これのおかげでちょっと話せたしな」
 そのちょっとがこんなにも嬉しくて、綱吉は切なげに笑った。





 雲雀は来なくて正解だった。

 パーティー翌日の昼休み、学校の裏庭をひとりで歩きながら、綱吉は昨日の出来事を思い返し、そう思った。
 もとより、あの面々が集まって何事もない筈はないのだが、祝い事ともなればテンションも三割増しで、いつものトラブルも三割増しなのだ。そんな所に雲雀がいたら、咬み殺す…とか言ってトンファーが出て来ること間違いなしで、被害は三割増しどころではなくなるだろう。想像しただけでゾッとする。
 それでも今日は自分の誕生日。何となくその姿だけでも見たくなり、綱吉は雲雀を探す。
 しかし、いざ探すとかなか見つからないもので、応接室付近を回ってみたが駄目だった。だが、用もないのに応接室に入るのは躊躇われる。何より、そこで会ってしまったらなんと言えば良いのか…

 なんか、これじゃストーカーみたいだよな…

 自分の行動にしょぼんと落ち込み、もう無理に探すのは止めることにしようとした時、近くで鳥の羽音を聞いた。空を仰げば、丸っこい小さな鳥が綱吉のすぐ上を旋回している。
「ヒバード?」
 飼っているのか、ただ懐いているだけなのか…とにかく、いつも雲雀の傍にいる黄色い小鳥に、綱吉は彼が近くにいるのではないかと辺りを見回す。しかし雲雀は見当たらず、ぽすんという軽い音とともに、綱吉の頭に重みが掛かった。
「へ?な、なに…」
 ヒバードが頭に着地したらしい。ふわふわな綱吉の髪の感触を楽しむようにもぞもぞと動き、再び飛び立つ。そして今度は肩にちょこんととまった。
「ヒバード…って…お前、何くわえてんの?」
 ヒバードは一輪の花をくわえていた。小さな薄桃色の花だ。普段おしゃべりなこの鳥が、どおりで大人しいはずだった。
 クイッと嘴を突き出して、花を綱吉に差し出すような仕草をするヒバード。
「え…と、くれるの?」
 そう聞けば、肯定するかのように翼を羽ばたかせる。戸惑いながらも受け取ると、嘴が自由になったヒバードは途端に喋り始めた。
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