◇◇◇

□プレゼント選びは慎重に
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 それは十月が始まって間もない日の昼下がり。並盛中学校の応接室で、草壁哲矢は真剣に悩んでいた。彼が敬愛する風紀委員長、雲雀恭弥に
「中二の女の子が誕生日に欲しいものって何?」
 と訊かれたのだ。並盛最強の恐ろしい風紀委員長が、何故そんなことを知りたいのか、雲雀をよく知らない者には不思議だろう。だが、草壁は雲雀の言う中二の女の子が特定の人物を指すことを知っている。それは沢田綱吉という一学年下の少女のことだ。
 雲雀はその少女に恋をしている。
 草壁がそれに気付いたのは一ヶ月ほど前。その頃から雲雀はよく綱吉に話しかけるようになった。しかし咬み殺すが口癖で、戦いが好きな雲雀に気弱な綱吉が怯えないわけがない。出会いが最悪だったこともあり、最初は話しかけられる度にビクビクとしていた。それでも最近は、かなり普通に話すようになったのだ。雲雀が根気よく、なるべく怖がらせないように話しかけ続けた成果だろう。
 根気よくなんて、本来の性に合わないことを雲雀がやり続けたのは、綱吉に対してそれだけ本気だからだ。ならばと草壁もこの恋を密かに応援していた。
 そんな中、綱吉の誕生日が近き、訊かれたのがこの質問だ。真剣に考えなければならないのだが、どれだけ老け顔だろうと草壁も中学生男子だ。女の子が欲しがるものなんて、よく分からない。
 雲雀と草壁。恋愛経験ほぼゼロな二人が頭を捻っても、それはなかなかにして難しい問題だった。
「普通なら、アクセサリーや雑貨小物なのでしょうが…」
「それなら何でもいいの?」
 そう、そこが問題なのだ。大まかにアクセサリーや雑貨といっても、本人の趣味というものがある。それをハズすと贈った人物の印象に影響を与えかねない。
「ならばお菓子などの食べ物では?物は残りませんが、貰う側も気兼ねなく受け取れますし」
「…食べ物」
「あとはそうですね…いっそのこと本人に訊いてみるのはどうでしょうか?」
「訊く?」
 もうすっかり中二女子全般ではなく、綱吉限定と分かっている答え方だが、雲雀も気にした様子はなかった。何より、それも一つの手だ。趣味ではないものを贈って微妙と思われるよりも、訊けば確実。
「誕生日プレゼントだとは分からないように、今欲しいものや好きなものを訊くんです」
「そう…うん。分かった」
 雲雀は立ち上がると、応接室を出て行く。きっと、早速訊きに向かったのだろう。一度決断すれば即行動の人だ。
「頑張ってください。委員長」
 閉まった扉を見つめながら、草壁は拳を握りしめた。





 あの後、雲雀はしばらくしてから戻ってきて、少し留守にするからと草壁に言いおきフラリと学校を出て行った。恐らく綱吉の誕生日プレゼントを用意するためだろうが、あれから十日以上。いまだに雲雀は帰ってこない。
「いったいどこに行ったのか…」
 主の居ない応接室を見回しながら、草壁はポツリと呟く。明日は綱吉の誕生日だ。間に合うのだろうか。不安はある。だが、実は居ないことで別の効果が現れ始めていた。
 それは先日のこと。綱吉が最近雲雀を見かけないと訪ねてきたのだ。毎日のように会っていた人物がパタリと姿を見せなくなったのだから、流石に気になったのだろう。その時は、貴女へのプレゼントを用意しに行ったまま帰らないんです。とは言えないので、仕事の都合でと誤魔化した。すると、綱吉は少し残念そうな、寂しげな表情を見せたのだ。
 これは、押して駄目なら引いてみろ的な恋愛の駆け引きが、謀らずも上手くいったのではと草壁は期待する。これで誕生日に綱吉が欲しかったものをプレゼントできたなら、好印象は間違いない。雲雀への恐怖心を払拭し、好感度を上げる大チャンスだ。
 それには、雲雀がプレゼントを用意して帰ってくることが必要不可欠。
「早くお戻りください。委員長」
 しかし草壁の願いも虚しく、この日も雲雀は帰ってこなかった。





 迎えた翌日。草壁は朝からソワソワと落ち着かなかった。雲雀はまだ帰ってこない。何かトラブルがあったのか。何度か携帯にかけてみたが繋がらない。雲雀のことだから無事だろうが、不安は募るばかりだ。
 午前中の授業が終わり、昼休みも終わり、午後の授業が終わっても帰ってこない。草壁は焦った。このままでは綱吉が帰ってしまう。しかしまさか、帰るなとは言えないので、所在だけは常に把握しておこうと綱吉の教室に向かう。しかし一歩遅かったようだ。彼女は既に友人達と下校した後だった。
 このまま学校で雲雀を待つか、綱吉を追うか。ほんの少し迷い、草壁は綱吉を追うことに決めた。
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