◇◇◇

□瓜二つ
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「好きです!」
 それはほんの一ヶ月前のこと。泣く子も黙る最強の風紀委員長、雲雀恭弥に告白したのは、一学年下の少女。ダメツナがあだ名の沢田綱吉だった。綱吉は可愛らしい容姿をしていたが、相手は群れを嫌い咬み殺すが口癖の恐ろしい人間である。誰もが、本人ですらフラれるだろうと予想していたのだが…
「そう。じゃあ、付き合おうか」
 まるでお天気の話でもするように、雲雀は綱吉の告白を受け入れた。こうして、一見正反対な二人は付き合い始めることになる。
 とはいえ、綱吉の友人達からすると、本当に付き合っているのかと思うほど雲雀の綱吉に対する態度は淡白に見えた。共に居るところすらほとんど見たことがない。一度だけ、一緒に帰る姿が目撃されてはいたが、手を繋ぐわけでもなく、ただ横に並んで歩いていただけだという有り様だ。友人達が様子を聞くと、どうやら数回そうして帰り道を共にしたことがあるだけで、デートすらまだだという。それでお付き合いしていると言えるのか。その日も授業が終わると、綱吉は雲雀の居る応接室へと向かったのだが、すぐに忙しいから一緒には帰れないと戻ってきた。
 心配する友人達に、綱吉は大丈夫と笑ってみせる。ふにゃりと幸せそうな笑顔に、誰も何も言えず、とりあえずは見守ることしかできなかった。

 そんなことが何日か続いたある日、まったくめげた様子も見せず応接室へと向かった綱吉は、扉をノックしようとした手を不意に止める。部屋の中から話し声がした。たまに副委員長の草壁哲矢が居ることはあるが、この声は違う。むしろ雲雀と似ていた。
 開けて良いものか迷う綱吉だったが、聞き慣れた三人目の声に驚き、ノックもせず扉を開けてしまった。
「リボーン!?」
 自分の家庭教師である赤ん坊姿の殺し屋が、雲雀の仕事机の上でくつろいでいた。
「なっなにやってんだ!おま…」
 いつものように、鋭いツッコミを入れようとした綱吉だが、張り上げた声は何故か急速に萎んで行く。
「え?あれ…雲雀さんが…」
 雲雀が二人居る。黒髪に切れ長の目。瓜二つの顔立ちをした人間が、一人は不機嫌を撒き散らし、もう一人は穏やかな笑顔で向かい合っていた。しかしよく見れば、違いはすぐに分かる。雲雀ではない方の人物は、長い襟足の髪を三つ編みにしており、服装も学ランではなく中華風だ。
「あ、え〜と…もしかして…」
 綱吉はその三つ編みと服装に見覚えがあった。すぐに分からなかったのは、リボーンと同じく赤ん坊姿しか見たことがなかったからだ。
「…風…さん?」
 元アルコバレーノ、風は、雲雀そっくりだが雲雀では有り得ない表情で、にっこりと微笑んだ。
「お久しぶりです。沢田綱吉さん」
「あ…はい。お久しぶり…です」
 久しぶりといっても、あまり話しをしたことはない。綱吉にとって、風は家で預かっている子供の一人、イーピンの師匠という印象が強かった。なので、学校の応接室に居る理由が分からない。しかも雲雀そっくりの大人姿でだ。
「風さん。なんで…」
「ああ、これですか?それが理由はさっぱり…今日目覚めたらこの姿になっていたのですが…」
 虹の代理戦争を経て、アルコバレーノ達の呪いを解くことはできた。だが、いきなり元に戻ることはなく、普通の赤ん坊と同じように成長するのだと思われていた。それがいきなりこの姿だ。しかも同じくアルコバレーノだったリボーンはそのまま。大変な事態のはずだが、本人はかなりお気楽な様子だ。
「まあ、よくは分かりませんが、体調に変化はありませんし、大丈夫でしょう」
 それよりも、と風は先ほどから仏頂面を崩さない雲雀をチラリと見る。雲雀は殺気を込めた視線を返すが、風は涼やかな笑顔を崩さず綱吉に目を戻した。
「綱吉さんは彼と付き合い始めたそうですね」
「ふぇ!?」
 それは事実だが、改めて言われると何やら恥ずかしい。
「あ、あの…」
「綱吉」
「ふぇい!?」
 わたわたしていると、雲雀の不機嫌な声が割って入ってくる。
「今日も一緒には帰れないから、先に帰りな」
「…あ…は、はい」
 綱吉はしょぼんと俯く。友人達には大丈夫と言ったが、こうした日が続けばやはり寂しい。しかし今日も顔は見ることができた。それだけで良しとしようと、綱吉は笑顔で顔を上げる。
「じゃあ、また明日…わっ!?」
 いつの間に来たのだろうか。目の前に風が居た。
「非道い男ですね。こんなに可愛い恋人に帰れなんて」
「へ?あ、いや…」
「どうでしょう。こんな冷たい人は放っておいて、私とデートしませんか?」
「……は?」
「どうせ同じ顔です。今日は私が彼の代わりをしますよ。さあ、行きましょう」
「え?な、なな、ちょっとまっ…」
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