◇◇◇

□インテリアはおまかせで
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 並盛中学校の風紀委員長だった雲雀恭弥と、ダメツナがあだ名だった少女、沢田綱吉。この対照的な二人が付き合い始めたのは、今から六年前のことだ。現在は大学生になり、成人を迎えた二人だが、変わらず仲良く、今日も中学校の応接室で他愛ない話に興じていた。
「…で、イーピンとランボが大ゲンカになっちゃって」
 と言っても、話すのは主に綱吉だ。話題は沢田家の居候、イーピンとランボのことだった。
 立場的、居候ではあるが、今や家族と変わりない沢田家のおチビ達も、現在小学六年生。もうすぐ中学生になる。見た目だけではなく、精神的にも、既におチビとは言えなくなってきていた。そして、そこに大喧嘩の原因があるらしい。
「ずっと一緒の部屋だったんですけど、最近ちょっとギクシャクしてるなぁって思ってたら、イーピンがもうランボと一緒の部屋は嫌だって言い出して…」
 もうすぐ中学生だ。男の子と一緒では何かと気を使うだろうし、自室も欲しいお年頃だ。しかし一人一部屋となると、沢田家では部屋数が足りない。
「じゃあ、どうしようか?って話しが揉めまして…」
 最初は口喧嘩だったものが、周囲を破壊する喧嘩に発展するのは久しぶりのことだった。イーピンが技を繰り出し、ランボが手榴弾で応戦する。それを綱吉の部屋でやったのだから、たまったものではない。
「色々壊れちゃったんですけどね。特にテーブルが完全にダメになりましたよ」
「それは災難だったね」
 雲雀が見ていた書類から顔を上げる。
「そのテーブル。僕が買おうか?」
「へ?い、いやいやいや。そんな、悪いです…あ…」
 そんなつもりで話したのではない。断ろうとした綱吉だが、ふと思い付いたことがあり、考え直す。
「じゃあ、それをバレンタインのお返しでどうですか?」
 ホワイトデーに何が欲しいか、訊かれていたことを思い出したのだ。
「テーブルでいいの?」
「はい!今度一緒に買いに行きましょう」
 雲雀に選ばせると、どんな高級品を買ってしまうか分かったものではない。なんだかんだ言っても良いところのお坊ちゃまなので、庶民とは金銭感覚が違うのだ。
「ふぅん。じゃ、今度の日曜日はどうかな?その日なら空いてるし、ホワイトデーには届くようにできるよ」
「そうですね。じゃあ、日曜日に」
 雲雀と一緒に家具選び。それはそれでなかなか楽しそうだ。災難が思わぬ楽しみに変わったと、この時の綱吉は単純に喜んでいた。





 しまった…

 日曜日。雲雀に連れてきて貰った家具屋の前で、綱吉は自分の迂闊さを後悔していた。
 綱吉の庶民的感覚でいえば、家具を買う場所はデパートの家具売場、量販店、アウトレットなどお手頃価格なお店に限定される。しかも目的はテーブル一つ。まさか高級家具屋なんて、普段在ることにも気付かず素通りするような場所に連れて来られるなど想像もしていなかった。買うお店も指定しておくんだったと嘆く綱吉だが、よく考えてみれば、今から他のお店に行くこともできる。
「あ、あの…」
「今日はここ、貸切にしたからゆっくり選んでいいよ」
「なっ!?」
 これで、他のお店という選択肢はなくなった。言えば変えてくれるのだろうが、貸切にさせたのに、ここで買わないのは申し訳ないという日本人的かつ貧乏性な感覚がそれを許さない。
「とりあえず、中に入ろうか」
「…はい」
 覚悟を決めるしかなさそうだ。自分の部屋に合うような物があるだろうかと不安でいっぱいの綱吉だったが、中に入ってみれば如何にもな高級品ばかりではなく、シンプルなデザインも多い。これはなら大丈夫そうだと、綱吉は安堵する。ただし、値札がないのは非常に気になったが…
 雲雀の群れ嫌いをよく知っているのか、店員は最初に挨拶をしてきただけで後は遠巻きに数人が待機しているだけだ。家具専門のお店に来たのは始めての綱吉は、辺りを物珍しげに見回す。まるで本物の部屋のようにディスプレイされた家具の中で、先ず目に付いたのは、テーブルではなく二人掛けのソファーだった。
「アレが気に入ったの?」
「え?あ…なんか良いなぁと思って…」
「そう、座ってみる?」
「良いんですか?」
「そのための展示じゃない?」
「あ、ですよね。じゃあ、ちょっとだけ」
 座ってみるだけならと、ソファーに腰を下ろす。
「…ふ、おぉ!良いですよ!座り心地最高ですよ。これ」
「へぇ…」
 そんなに良いのかと、雲雀も隣に座る。そして納得した。
「確かに良いね」
「ですよね〜」
 しばらくまったりと、座り心地を楽しむ。
「買う?」
「はい?」
「コレ」
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