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□雲雀家の結婚式
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「ひ、雲雀さん!俺とこれから先、ずっと一緒に居てください!!」

 それは昨年の十月。沢田綱吉の誕生日の数日後のこと。この、告白ともとれる台詞は、その時に綱吉が雲雀恭弥に言ったものだ。しかし、綱吉本人にそんなつもりはまったくなかった。
 そもそもは誕生日に、雲雀が何が欲しいか、して欲しいことでも良い…と訊いてきたことが始まりだった。雲雀から誕生日プレゼントを貰えるなんてきっと一生に一度のことに違いないと考えた綱吉は、悩みに悩んだ。
 綱吉とって雲雀は、ちょっと怖くて無茶苦茶なところはあるけれど、信頼できる先輩だ。きっかけがなければ、ダメダメな自分が話しをすることもなかっただろう凄い人なのだ。だからこそ、これからも繋がりが持てれば嬉しいと思っていた。今だけの知り合いなんて寂しい。ずっと仲間でいて欲しかった。しかし、群れを嫌う雲雀に仲間とか友人とか、そんな言葉を使えばきっと却下されてしまう。困った綱吉は、少しばかり焦っていたこともあり、結果、そういった関係性を表す言葉を抜いて言ってしまったのだ。
 しかし、問題はここからだった。雲雀は綱吉の言葉をプロポーズだと思い、なんと、それを受けてしまったのだ。しかも、五月の自分の誕生日に結婚式を挙げるとまで言い出した。
 混乱した綱吉が、自分の言い方に問題があったのだと認識したのは後日だ。
 とにかく誤解を解かなければならない。最初はそう思い、言い出すタイミングを伺っていた。しかし、思いのほか雲雀は優しく、綱吉を大切にしてくれた。一緒にお昼を食べ、一緒に帰って…そんな毎日を過ごしているうちに、綱吉はこのままでもいいかと思うようなる。元々、ずっと一緒に居てくださいなんてお願いをするくらい、彼女にとって雲雀は特別な存在だったのだ。
 結局、誤解を解かないまま、綱吉は雲雀とお付き合いを続けた。クリスマスもお正月も一緒に過ごし、バレンタインにはチョコレートを作って贈った。きっかけはともかく、なんの問題もない恋人同士になった。ここまでは…
 それは、二月下旬のある日。綱吉は昼休みに、応接室で雲雀とお弁当を食べていた。
「そうだ。綱吉」
「はい?」
「母さんが今度…」
 雲雀が言う母さんとは、もちろん彼の実母のことだ。綱吉も何度か会っているが、かなり気に入られたらしく、雲雀抜きでも家に呼ばれたりしている。
「家においでって…」
 今回も家への招待だった。呼ばれる理由は、美味しいお菓子があるからとか可愛い服を買ったからとか、そんな感じたが、雲雀に言わせれば単に可愛がりたいだけらしい。
 今日はなんだろうか。お菓子だと嬉しいなと綱吉は思った。服は可愛らしすぎて、自分に似合っているのかがよく分からない。しかも、明らかにお高そうな物をあげると渡されるのは、やはり気がひけた。
「花嫁衣装をね。早めに合わせておきたいからって…」
「衣装…」
 というと服の方だろう。

 しかも花嫁衣装なんてまたお高そうだなぁ…ん?花嫁…って…

 衣装というところにだけ意識がいって、うっかりその意味を流してしまうところだった。
「は…なよ、め?」
「そう、花嫁衣装。式は五月だけど直しが必要になると思うから早めにって言ってたよ」
「……し、き?って……あっ…」
 綱吉の元々丸い目が、更に丸くなる。彼女はようやく思い出したのだ。あの日、雲雀が言ったことを…

「そうだ。式は僕の誕生日にしよう。その日、君を貰うよ。君の誕生日プレゼントは僕だから、僕の誕生日プレゼントは君で良いよね」

 そう、言われたのだった。
 雲雀の言葉が頭の中を巡る。しまったと思う。あの時、プロポーズだという誤解だけはなんとかしておくべきだった。しかし付き合い初めてから、結婚式のことは一度も話題に上がらず、綱吉はいつしか、そのことを忘れてしまっていたのだ。
 だが雲雀は、いつの間にか着々と準備を進めていたらしい。
「準備はこっちでやってるから綱吉はのんびり構えてていいよ。ただ、今回みたいに衣装合わせとか、ちょっとやって貰うことは増えると思うけど」
 雲雀の口振りから、事がかなり進んでしまっているらしいと分かる。このままでは、五月に結婚式だ。どうにかしなければならない。
「ほ…本当にするんですか?その…結婚式」
「もちろん」
 笑顔で即答されてしまい、綱吉は背中に冷や汗が流れるのを感じた。雲雀を説得するのは、かなり難しそうだ。ならばどうすれば良いのか。綱吉はあまり回転のよくない脳を、必死でフル稼働させた。
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