◇◇

□あけおめ!
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「…雲雀さん」
「なに?」
「寒いです」
「気合いがたりないんじゃない?」
「そんなぁ…」

 真冬の海、身を切るような冷たい風が吹く浜辺に、雲雀恭弥と沢田綱吉が肩を並べて座っていた。
 日付は一月一日。午前六時半。
 年明けの海岸ですることといえば、初日の出を見ることだろう。二人もその為に、ここにいた。
 しかし、綱吉は望んで来たわけではない。元々行動的な質ではない彼女は、初日の出より寝ていたかった。
 連れ出したのは雲雀だ。
 それは一時間程前に遡る。





 大晦日。綱吉は今年一年を振り返りながら、家族と年越し蕎麦を食べていた。
 マフィアだの何だのと、思えば波乱の年だった。今、こうしてまったりと蕎麦食べていられるのは奇跡だ。
 そんな平穏な年末を堪能し、年明けを迎えてから就寝の準備をする。翌朝は友人達と初詣に行く約束をしていたが、早い時間ではない。目覚ましをいつもより遅い時間に設定して、眠りに着いた。
 平穏な眠りは、目覚ましが鳴るまで守られる筈だった。しかしそれは、窓からの侵入者によって破られてしまう。

「ねぇ君。早く起きないと咬み殺すよ」

 綱吉が、それだけで飛び起きたのは条件反射だろうか。
 目の覚めた彼女が最初に見たものは、雲雀のどアップだった。
「…な、な?ひ…」
 突然起こされ、目の前には雲雀。呆然とする綱吉に、並盛最強の風紀委員長様は、なんの前置きもなくこう言った。

「初日の出を見に行くから早く支度して」

 と…
 雲雀と綱吉は、仲良く初日の出を見に行く程の関係はない。守護者云々で関わることは多くなったし、話しをする機会も増えたが、一緒に出掛けたりする仲ではなかった。それがいきなり初日の出とは訳が分からない。
 とはいえ、この恐ろしい風紀委員長様に気の弱い綱吉が否と言える訳もなかった。言われるままに支度をすると、抵抗する間もなくバイクに乗せられる。
 このバイクがまた恐怖だった。
 猛スピードでまだ夜明け前の暗い街を疾走し、しかも途中、新年の初走りに集まった暴走族と、その取り締まりに奔走する警察と鉢合わせする。バイクのスピードど寒さに青ざめていた綱吉だが、その二大勢力が雲雀を認識するなり、十戒の如く道を空けたことに更に青くなった。

 暴走族はともかく、なんで警察までー!?

 しかし、その叫びは声にはならない。綱吉は一言も発することができずに、必死で雲雀にしがみついているしかなかった。



 こうして、連れて来られた場所。それがこの並盛海岸だ。



 綱吉は横の雲雀をチラリと見る。彼女は先程から寒い寒いと言っているが、それは雲雀の服装が寒そうで、彼が風邪を引かないか心配だからだ。
 雲雀は、いつもの学ラン姿だった。今はそこにマフラーをしていたが、それは海岸に着いてから綱吉が慌てて自分のものを巻いたからだ。

 前に風邪をこじらせて入院してたくせに、なんでそんな薄着かな…

 そもそも何故、初日の出など見に来ようと思ったのか。

 しかもなんで俺と一緒に?

 そこが一番分からない。
「あの〜…雲雀さん」
「なに?やっぱり寒いの?」
「いえ、寒いは寒いんですけど、そうじゃなくて…あ…」
 明るくなってきた東の空を見ながら、連れてこられた理由を訊こうとしたその時、強い光が水平線を照らし出した。
「朝日が…」
 今年始めの太陽が、顔を出し始めた。徐々に光が広がり、海面がキラキラときらめく。
「うわぁ…」
 正直、それほど期待してはいなかったのだが、それはとても美しい光景だった。
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