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□本番は舞台裏から
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 『怪物づかいツナ』
 そう書かれた台本を、沢田綱吉は読んでいた。
 それを家庭教師に渡された時から不安を張り付かせていた表情は、次第に引きつったものへと変わる。そして最後まで読み終わると、溜め息混じりに台本を閉じた。

「無理!」

 きっぱりと言い放つが、教え子にスパルタな先生は容赦ない蹴りをお見舞いしてくる。
「やる前から何言ってやがる」
「いって〜!…だって無理は無理だろ!ていうか、無茶だ!」
 綱吉は叫ぶ。
「だいたい、並中の文化祭にファミリーで劇に参加しろっておかしいだろ!ボンゴレ関係ないし、そもそも俺はマフィアのボスになんかならないからファミリー関係ないし!」
 綱吉の家庭教師リボーンの無茶振りは今に始まったことではないが、今回は流石に絶対無理だと思われた。最大理由は用意された台本の内容だ。
 それは、怪物づかいの血を引く勇者ツナが、仲間を集め吸血鬼ヒバリンを退治するというゲーム的な内容だった。

「雲雀さんが俺に退治される話になんか参加してくれるワケないって!」

 そもそも群れることを嫌う人なのだ。劇に参加というだけでも恐らく無理だというのに、自分が勇者で退治される吸血鬼が雲雀など、台本を見せただけで咬み殺されてしまうに違いない。
 そう主張する綱吉に、リボーンは余裕の笑みでそれを覆した。
「雲雀だったら出演を引き受けたぞ」
「へ?」
「それどころか当日は風紀委員達を貸し出してくれるそうだぞ」
「え?ええー!?」
 あの雲雀が群れに力を貸すなど、いったいどんな裏取引があったのか…
「ま、そういう訳だ。ツナはこれから演技の特訓だ」
「ええー!?ホントにやるの?」
 綱吉は抗議の声を上げたが、リボーンには通用しない。
 否応なく、怪物づかいツナの文化祭公演に向けての特訓は始まってしまった。





 そして文化祭当日。天気にも恵まれ、なかなかの盛況だ。しかし、部外者も多い為にトラブルも多く、取り締まる風紀委員も朝から忙しくしている。
「こんな状況でホントに雲雀さん出てくれるのかなぁ?」
 衣装に着替え、すっかり準備も整った綱吉は舞台裏で緊張と不安に身を縮めていた。
 自分に演技などできる筈もないが、ここまできたらやるしかない。それよりも心配なのは雲雀のことだ。
 もうすぐ開演だというのに、まだ来ていない。それどころか、雲雀は練習に一度たりとも顔を出していないのだ。
 やはり無茶だったのではと思う。しかしラスボスなのだ。居なければ話にならない。来なかった場合、どうすればよいのだろう。それを考えただけで綱吉の胃はキリキリと傷んだ。
 そうこうするうちに開演時間となってしまう。
「雲雀さん来てないよ!どうするんだよ!」
「慌てんな。雲雀は絶対に来る」
 いいからさっさと行ってこいと綱吉がリボーンに舞台へと蹴り出され、怪物づかいツナの公演が始まった。





 芝居は滞りなく進んだ。人気のある獄寺と山本、何より雲雀が出るとあって、話題性はバッチリ。当然人の入りも多い。
 綱吉は緊張しっぱなしではあったが、厳しい特訓の成果か今のところ目立った失敗もなく、なんとか芝居を続けている。
 そして、とうとう雲雀の出番が回ってきた。
 古城の扉を開けると一旦舞台は暗くなり、場面は城の内部へと変わる。明るくなるとそこに雲雀が居る手筈だ。

 雲雀さん来てくれてるのかな?

 綱吉の不安を余所に、照明が落とされ、再び点いた。
 セットの階段が見える。その上に雲雀が居る筈だった。恐る恐る顔を上げてみる。
 雲雀は居た。

 わぁ…いるよ…

 いや、居てくれなければ困るのだが、それより何やら感動してしまう。

 雲雀さん吸血鬼の格好似合うな〜…

 優雅な吸血鬼の装いは、文句なく格好良い。綱吉は思わず見惚れてしまった。お陰でうっかりセリフを飛ばしてしまうところだったが、リボーンに小突かれ我に返る。

 え〜と、このあと雲雀さんに一度倒されて、それから…

 次の場面を考えていると、雲雀が階段を駆け下りて来た。この場面はリボーンが雲雀の代役となって、何度も練習をした。タイミングを合わせて倒れ込めばいい。
 そしてまた舞台は暗くなる…筈だった。しかし照明が落ちない。

 あれ?照明係の人が間違えてるのかなぁ?

 倒れ込んだ状態でそっと辺りを見回す。
 足音が聞こえた。靴が見える。

 雲雀さん?なんで…

 雲雀が綱吉の傍らに膝を着く。しかし、こんな場面は無い筈だ。しかも、襟元を掴まれて引き起こされてしまった。
「へ?あ、ひ、ひば…」
 やはり自分に倒される結末など気に入らなかったのだろうか?このまま咬み殺されてしまうのだろうか?
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