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□君に贈るこの想い
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 十月十四日、並盛中応接室。ここの主、雲雀は難しい顔をしてソレを見つめていた。
 机の上には、赤いリボンの掛かった小さな包みがある。それは雲雀の物であって、雲雀の物ではない。本日、誕生日を迎えた沢田綱吉へのプレゼントだった。

 雲雀恭弥。誰もが恐れる並盛の風紀委員長。
 そんな彼が、何故ダメツナと呼ばれている少女にプレゼントを用意したのか…実のところ、それを一番知りたいと思っているのは当の本人だった。

 雲雀にとって、綱吉は取るに足りない草食動物だった筈だ。それが、いつからか、やたらと視界に入るようになった。不快ではないが不思議に思っていると、入ってくるのではなく、自分が入れていることに気付く。
 綱吉はよく泣く。よく怒る。よく驚く。そしてよく笑う。
 それが面白くて、ついつい見てしまうのだと雲雀は思っていた。
 やがて、会えば挨拶をしてくるようになった。少しだけ話すようにもなった。しかし綱吉は、雲雀の前でビクリと震えて俯いてしまう。彼にはそれがどうも面白くない。
 どうしたら顔を上げるのか、そんなことを考え始めたある日、黒衣の赤ん坊が何故か楽しげに、綱吉の誕生日が近いことを雲雀に教えた。
 そんなことを自分に教えて、どういうつもりなのか。意味のないことだと思いながら、雲雀は何故か商店街へと向かい、可愛い小物が売っている店でそれを見つけ、購入。リボンまで付けて貰った。
 それが今、机の上にある物だ。
 中身は雲雀に懐いていている小鳥によく似たマスコット付きキーチェーン。以前、綱吉はその小鳥が可愛いと言っていた。大した物ではないが、こういった物の方が喜ぶと思ったのだ。が、雲雀は益々難しい顔になる。
 何故自分が綱吉を喜ばせようとしているのかが、全く解らないからだ。

 僕は何がしたいんだ?

 理解し難い自らの行動。解らないのなら無視してしまえば楽かもしれないが、既にプレゼントは目の前にある。渡さないという選択は、何かから逃げているようで気に入らない。ならば、やることは決まっていた。
 雲雀はソレを掴むと、応接室を出る。向かうは二年A組の教室。沢田綱吉のクラスだった。





「あぁ?十代目になんの用だ」
「君に用はない。沢田綱吉はどこ」
 休み時間で賑わっていた筈の二年A組の教室は、異様な緊張感に包まれていた。
 さっさとプレゼントを渡してしまおうと教室にやってきた雲雀の前に、十代目の右腕を名乗る獄寺隼人が警戒心を剥き出しにして立ち塞がる。
「っんだと!?テメェみたいな危険人物を十代目に会わせられるかよ!」
 今までのことを考えれば、獄寺の言い分はもっともだ。しかし雲雀にそんなことは関係ない。何より、彼は日頃から獄寺が気に入らなかった。
 常に綱吉の傍に居て、離れようとはしない。綱吉を見ると獄寺も居る。それが何故かとても腹立たしい。
「ふぅん。咬み殺されたいみたいだね」
 凶悪な金属音を起てて、雲雀はどこからかトンファーを取り出す。獄寺も、いつの間にかダイナマイトを手にしていた。
 周囲の者が慌てて逃げて行く。巻き込まれたらただでは済まない。
 しかし、一触即発の状態は、その場にそぐわない陽気な制止で回避された。

「まぁまぁ二人とも。ここでは止めとこうぜ」

 獄寺の肩にガシリと腕を回し、雲雀に朗らかなな笑顔を向けたのは山本武だった。
「雲雀、ツナは今ここにはいねーんだ。笹川達と行ったから…多分トイレだ」
 雲雀も教室に綱吉が居ないことは気付いていた。だから何処かと訊いたのだが、それならば仕方ない。
「…そう」
 トンファーを仕舞う。やり合う気は失せていた。
 獄寺がもう来るなと悪態を吐き、山本が用があるなら伝えとくけど、と声を掛けたが、それを無視して雲雀は教室を後にした。
 急ぐ必要はない。今日中に渡せればいいのだ。昼休みか放課後にするつもりで応接室に戻る途中、緊迫した声が雲雀を呼んだ。

「委員長!」

 振り返ると、風紀副委員長の草壁哲矢が厳しい表情でこちらに向かって来るところだった。
「なに?」
「族が現れて暴れているとの報告が」
 族は並盛外からやって来て、バイクで街中を暴走しているのだと言う。
 軽く舌打ちが漏れた。
「わかった。すぐに行く」
 憮然と言い放つ雲雀に、草壁はおや?と首を傾げる。いつもの委員長ならば、咬み殺す相手ができたと楽しげに笑うところだ。並盛の街を荒らされて不快に思っているのかとも考えたが、寧ろ焦りを感じた。
 事実、雲雀は焦っていた。バイクで大人数とくれば、最強を誇る風紀委員長でも全て倒すには時間がかかる。
 胸ポケットに入れたプレゼントが気になっていた。昼に渡すことは無理だろう。ならば放課後には間に合うようにしなければならない。
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