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□生徒会長の苦難と恋
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 並盛学園入学式当日。その怪しい人物は、新入生である一人の女子に声を掛けた。

「そこの貴女。生徒会長になりませんか?」

 左右違う色の瞳と、奇妙な髪型をしたその男子生徒の唐突な勧誘は、新入生、沢田綱吉の高校生活を混乱の渦へと巻き込んでいくことになった。





 並盛学園は中等部と高等部の二つから成る私立学校だ。
 沢田綱吉は高等部からの新入生として学園に入学した。彼女の両親が、仕事の都合で丁度春から海外に行くことになり、一人日本に残ることを決めた綱吉は寮の設備がしっかりしたこの学園を選んだのだ。勿論、入学案内のパンフレットも読み、受験前に見学にも来た。自然豊かで穏やかな環境だと気に入っていたのだが、入ってみなければ分からないことというものは、どこにでもあるものだ。
 そう、入学式でいきなり、生徒会長にならないかと誘われてしまったりするのだから。
 とりあえず、その場からは全力で逃げてはきたが、あれは何だったのだろうか。これからの学園生活が少し不安になってくる。

「それは生徒会長の六道骸さんだよ」

 そんな綱吉に怪しい人物について教えてくれたのは、寮のルームメイトである笹川京子だった。
「生徒会長、あの人が?」
 綱吉にしてみればいきなり怪しげなことを言ってきた変な人だが、京子は間違いないと言う。
「この学校の生徒会長は指名制なの。現会長が次期会長を決めるから、ツナちゃん次期に選ばれたのかな?」
 選ばれる覚えのまったくない綱吉は、よく分からない様子で暫くぽかんとしていた。しかし、徐々に理解すると、驚きに声を上げる。
「なっなぁ!?ちょっと待って!それはなんかの間違いだよ!俺はまだ入学したばっかでこの学校のことなにも知らないし、勉強も運動もダメダメなのにあり得ないって!」
 情けないことだが、この学校に受かったのもギリギリだったのだ。
「ん〜私はツナちゃんがダメだとは思わないけど…そうだね。流石に間違いだよね。それに今は生徒会長になったらすごく大変そうだし」
「え、今は大変…?」
 生徒会長は今でなくとも大変な役職だと思うのだが、京子は敢えて今という。
「うん、それはね。今この学園は生徒会ともう一つ、風紀委員会の二つの勢力が争っているの」
「風紀委員会?争ってるー!?」
 平和だと思っていた学園の思わぬ火種に、青ざめる綱吉。京子は生徒会と風紀委員会について、更に詳しく教えてくれた。

 元々学園の支配者は生徒会だった。いったい何故そんな権力を持つようになったかはよく分からないが、教師すら口出しできない程だったらしい。その勢力図に変化が現れたのは四年程前、ある人物が風紀委員長に就任したことから始まった。
 その新しい委員長は先ず、生徒会から潰しに掛かった。当時の会長はそれに対抗できず、あっという間に勢力の半分を削られ、慌てて次にその座を譲ったという。
 こうして会長になったのが六道骸だ。
 彼は見事な手腕で風紀委員会の勢力拡大を食い止めたが、押し返すこともできなかった。そして二つの勢力は今も均衡を保ったまま、数年に渡って並盛学園の支配権を争っているのだ。

「ふ、えぇ…なんか学校の話とは思えないよ」
 生徒会や風紀委員会とはいっても、所詮は生徒の集まりだ。教師が口出しできない程の権力なんて、綱吉には想像もつかない。
「でも、だったら余計にあれって間違いだよ。そんな勢力争いに巻き込まれても俺、何にもできないし」
「そうだね。普通に生活してれば私達にはあまり関係ないことだもの」
 関係ないこと…綱吉もそう思っていた。だから、それを訊いてみたのはほんの気まぐれだった。
「そういえば、風紀委員長さんの名前はなんていうの?」
「雲雀さんだよ」
「ひばり…さん」
「そう。えーと…下の名前は確か…」
 少し考えて、京子は雲雀の名前が恭弥だったことを思い出す。

「へぇ、雲雀恭弥さん…か」

 これからも関わることはない筈の人なのだが、何故かその名前は、綱吉の耳にいつまでも響いていた。





 それから数日間。綱吉はごく普通の日常を過ごしていた。新しい生活は慣れないことも多く大変ではあったが、概ね平和で京子の言った通り、生徒会も風紀委員会も一般生徒には直接的な関わり合いはあまりないらしい。ただ、時折風紀委員らしき人達は見かける。しかしそれも、風紀を乱すような行いをしていなければ問題はない。
 そんな平穏な毎日の中、綱吉自身、入学式でのことなど忘れかけていた。しかし、災難というものは忘れた頃にやってくる。

「クフフ。こんにちは、沢田綱吉さん。準備が整いましたのでお迎えにあがりましたよ」

 六道骸という奇妙に笑う悪魔が、綱吉の平穏な日常の終わりを告げた。
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