□真夜中のモンスター
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「え〜と…お仕事ですか」
「はい、申し訳ないのですが…」
「いえいえ、草壁さんが悪いんじゃないですから…」

 十月三十一日、ハロウィン。昨今、日本でも定着してきた。カトリックの収穫祭。
 別にカトリックの信者でも何でもない綱吉だが、お祭りというものは、どこか気分を高揚させるらしい。
 足取りも軽く、綱吉が歩くのは土曜日で休みの筈の学校。目指すはもちろん応接室。大好きな恋人、雲雀のところだった。のだが…
 途中で草壁と偶然に会い、彼からお目当ての人物が風紀の仕事で学校にいないことを知らされた。
「いつ、お戻りになられるかも分からないのですよ」
「そうですか…」
「委員長と連絡が取れましたら、沢田さんが来られたことを伝えておきますが…」
「あ…いえ、気を使わせちゃうといけないから…いいです」
 草壁の申し出は有り難かったのだが、綱吉は約束をしていた訳ではない。ただ、家の子供達に配る為に母親と作ったお菓子が、ことのほか上手く出来上がったので雲雀と一緒に食べようと思い立ち、来ただけなのだ。
 もっともそれは口実で、本当のところは最近仕事で忙しい雲雀と、久しぶりにゆっくりと会いたかっただけだった。
 しかし、いないのでは仕方がない。ぺこりと頭を下げて草壁に礼を言い、綱吉は溜め息混じりに学校を後にした。




 家に帰ると、いつものメンバーがいつの間にか揃っていた。
 ハルが、なまはげの格好でトリックオアトリートなんて言ってくる。そのミスマッチがおかしくて、綱吉の落ち込んだ気分はちょっとだけ回復した。
 その後はみんなでお菓子を食べて、もっと食べたいというランボに、雲雀と一緒に食べる筈だったものを、綱吉は上げてしまった。

 仕方ないよね。きっと今日はもう…

 会えないだろうと、綱吉は半ば諦めてしまっていた。





 その夜、ハロウィンも後数分で終わる真夜中。綱吉の部屋は静けさに包まれていた。
 ベッドの綱吉は穏やかな寝息を起てている。ハンモックのリボーンも、目はバッチリ開いているのだが鼻ちょうちんを作っているところを見ると、一応寝てはいるらしい。

 …カラリ。

 小さな音を起て、窓が開く。黒い影がするりと音もなく、侵入した。
 影は真っ直ぐに綱吉のベッドまで行くと、僅かに軋ませながら腰を下ろす。身を屈め、すやすやと眠る少女の名を呼んだ。

「…綱吉」

 甘い声音は綱吉が起きていれば、誰のものかすぐに分かっただろう。それは雲雀だった。
 雲雀は更に屈み込み、綱吉の耳元で囁く。
「トリックオアトリート?」
 ハロウィン定番の言葉だが、熟睡状態の綱吉からは返事はない。
「お菓子はないの?じゃあ、イタズラで…」
 寧ろイタズラで…そんな楽しそうな笑顔で、綱吉の柔らかな頬をつつっと撫でる雲雀だったが、背後に生じた気配に、素早く反応した。
 トンファーを構える。銃口と小さな人影が見えた。誰なのかは、振り向く前から分かっている。
「やあ、赤ん坊。起きてたの」
「お前が入ってきたときからな。むしろ起きねーダメ生徒の方が問題だ」
 リボーンがハンモックから上半身を起こし、銃を構えている。
「それより、遅かったじゃねーか。ツナがえらい落ち込みようだったぞ」
 綱吉は平気なそうな顔をしていたが、先生にはお見通しだったようだ。
「ちょっと厄介な連中を片付けていてね」
 何事もなかったように、互いの得物をしまう。
「言っとくが、お前の菓子はアホ牛の腹の中だ」
「それは、後で咬み殺しておかないとだね」
「やったのはツナだぞ」
「うん、だからこの子にはイタズラだよ」
 イタズラと言いながら、綱吉の髪を撫でる雲雀の手は優しげだ。
 リボーンは呆れたように息を吐くと、再びハンモックに身を沈める。
「下にはママンとチビ共が寝てる。イタズラは明日にしておけ」
「わかってるよ。今日は流石に疲れたからね。もう寝るよ」
 そう言うと、雲雀は学ランを脱ぎ、履きっぱなしだった靴を脱いだ。一人用のベッドに体を滑り込ませ、綱吉を腕に抱き込んでしまう。
「おやすみ、赤ん坊」
 他人様の家で寝る気な雲雀を、リボーンは咎めずおやすみを返した。
「綱吉、おやすみ」
 ここまでされても、まるで起きる気配のない綱吉の額に軽くキスをして、雲雀は目を閉じる。
 時計の針が真上を指し示し、ハロウィンの終わりを告げた。





 翌朝、沢田家に絶叫が響き渡る。
 自分を抱えて寝ていた雲雀に驚いた綱吉が、悲鳴を上げながら飛び起きて、まだ眠いと言う雲雀に引き戻されたのだ。
 訳の分からない綱吉だが、本格的に始まった雲雀のイタズラに、再び悲鳴を上げることになるのは、もう少し後のことだった。

end

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