□好きという言葉
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 綱吉を担いでここまで来たのも、あれの方が楽に人を運べるからだった。
 雲雀に抱き締められたまま、離れない腕に苦労しながらも、綱吉は何とか布団を掛ける。
 その間も目を覚まさない雲雀の頭を、そうっと抱き締めた。相変わらずサラサラの髪が心地良い。
 雲雀は綱吉を好きなように触りはするが、綱吉が触れることも自由にさせている。真っ直ぐな美しい黒髪を撫でるのが、綱吉は好きだった。

 やっぱり俺、雲雀さんのこと好きなんだな…

 今まであやふやだった感情が、しっかりとした言葉になる。

「雲雀さん、好き…」

 そっと声に出してみた。それだけで、気恥ずかしさに顔が熱くなる。雲雀に面と向かって言える日は、当分先になるかもしれなかった。

 そして、静かな保健室に二人きり、最初は雲雀の様態に気を配っていた綱吉だが、その寝息が楽なものになってくると、つられて眠気に捕らわれた。
 数分後、彼女の意識はゆっくりと睡魔の誘惑に落ちていった。





 もぞり。

 妙な感覚に意識が戻る。寝ぼけた頭が、自分の置かれた状況を少しずつ理解し、思い出してゆく。
 ここは保健室。熱のある雲雀に添い寝していて一緒に眠ってしまったのだ。
 雲雀の容態はどうだろうかと胸元を見れば、確かにそこには雲雀の頭があった。しかし、眠ってしまう前とは明らかに色々違う。
 綱吉のブラウスのボタンは全て外され、下着も脱がされかけていたのだ。
「な、ななな、なぁ!?ちょ、ひば…ひゃあ!」
 雲雀が胸元でもぞもぞと動いていた。
「やぁ、ひば…りさ…ん、や…やめて下さい!!」
 思いきりジタバタ暴れて、やっと雲雀の動きが止まる。
「なんで止めるの?」
 上げた顔はやや不満げだったが、先程のような不機嫌さはない。
「なんでって…雲雀さん、熱は?体の具合はどうなんですか?」
 心配する綱吉に、雲雀は自慢げに笑って言った。
「治ったよ。君が居れば治るっていったじゃない」
「え…って、本当に!?いやいやいや、だとしても、病み上がりでしょう!あまりその…刺激的なことは…」
「なに言ってるの、だからじゃない」
 相変わらず訳の分からない理屈で、再び綱吉の胸に顔を埋めた雲雀。
「ひゃっ…ん…だ、め、ダメですって!ここは保健室なんですよ!いつ誰が来るか…」
 そんな場所でこんなコト…と気が気でない綱吉に、雲雀は事も無げに言う。
「大丈夫、来たら追い払うよ」
「そ、そういう問題じゃ…それに、やっぱり俺達ちゃんとお付き合いしてるわけじゃないのに、こんなコト…」
 太ももを撫で始めていた雲雀の動きが、ピタリと止まる。
「何を今更…僕はとっくに付き合ってると思っていたんだけどね」
「…………へ?」
「それともなに?君は好きでもない人間にこんなコトを許すの?」
 雲雀の視線が鋭いものになる。綱吉は必死で首を振った。
「そんなことっ俺は、俺は雲雀さんだから…雲雀さんが好きだから!」
 すぐに言うことなどできない言葉だと思っていたが、誤解されるのは悲しくて、思わず叫んでいた。
 しかし、それに対する雲雀の反応は意外なものだった。
「うん、知ってる。さっき言ってくれたよね」
「…ふぇ?」
 さっき、というと、あの呟きを聞かれていた…ということになる。
「…ね、眠ってたんじゃ…」
「完全な眠りに入っていたわけじゃなかったからね」
「な、そ、あ…知って…て…」
 驚きに上手く言葉にならない。
 知っててあんなコトを言ったのか!と言いたいらしい。

「だって、ちゃんと聞きたかったから、君から好きだって…」
 雲雀が笑う。それは、今まで見たなかで一番の笑顔だった。
 そんな笑顔されてしまっては、もう怒れない。
 雲雀の顔が、真っ赤になった綱吉の顔に近付く。キスをされるのかと思えば、耳元に口を寄せ、囁かれた。
 その途端、もうこれ以上赤くはならないだろうと思われた綱吉が更に赤く染まった。

「僕も好きだよ。綱吉」

 それは今度こそ、綱吉にもはっきりと解る告白だった。

end
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