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□whitekiss
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雲雀は綱吉を割り当てられた部屋まで送る。
「じゃあ、おやすみ綱吉。またあとで…」
眠そうな目を擦りながら頷いた綱吉だが、ふと、何かを思い出したように雲雀の服を握リ締めた。
「綱吉、何?」
聞いても俯いて顔を上げない綱吉に、雲雀は少し屈む。
「つなよ…」
綱吉が顔を上げた。クイッと爪先立ちになる。二人の顔が重なり、離れた。触れたのは一瞬、しかしそれはとても柔らかく、滑らかだった。
離れて行く綱吉の顔はこれでもかというくらいに真っ赤で、自分も同じくらい赤いのだろうと雲雀は痺れる思考の片隅で確信した。
「あ…あの…お、おおや、おやすみなさい!」
それだけ言うのが精一杯なようで、綱吉は慌てて部屋に引っ込む。雲雀はドアが閉まるまで、一言も発することができなかった。
唇に触れた感触。それはとても短かったが、確かにキスだった。
ドアの向こうから、盛大に転けた音がする。綱吉が自分がしたことの恥ずかしさに、かなり動揺していることが分かった。下手をすれば雲雀以上に照れ屋な綱吉が、自分からキスをするなどどれほどの勇気がいったか…
雲雀は自分の不甲斐なさを恥じた。
今のようにキスをするだけならば、いくらでも機会はあった筈だ。それなのに色々考えすぎて、この様だ。
溜め息をひとつ、そしてドアを見つめると、雲雀はそっと手を置く。
「綱吉、まだ起きてる?」
少し間を置いて、小さな返事がした。
「今の…今度は僕からしたい…できれば、もう少し…長く…」
先程より長い間が置かれ、カチャリとドアが開く。ちょこんと出された顔は真っ赤なままだった。
雲雀は赤く熟れた頬に手を添える。綱吉の瞼が閉じられ、二人の顔が近付く。
邪魔は入らなかった。
唇が重なる。今度はもう少しだけ長く…
「あの様子だと何もなかったようだな…」
「そうね。キスだけであんなに手間取っているようじゃねぇ」
「良かったね」
草壁、京子、花の三人は、帰り支度のために部屋へと戻ろうとして、その場に居合わせてしまった。覗くつもりはなかったのだが、色々気になっていた三人はついついことの成り行きを観察してしまう。
結果、昨夜は何もなかったという結論で全員一致した。
「良かった…のかしらね?」
どうにも花としては複雑な心境だ。とろとろ進展のバカップルは見ていて少しイラつく時もあるが、いきなり一線を越えられてしまうのもどうかと思う。
「良いんだよ、きっと…あの二人はゆっくりなのが…」
京子が優しい笑顔で言う。
「そうかもな…」
草壁も頷く。やきもきしても仕方がないのかもしれない。
これからもゆっくり、ゆっくりと雲雀と綱吉は二人で歩んで行くのだろうから…
end
《あとがき》
いいから早くぶちゅっといけよ…と、詰まるとうっかり思ったり…(笑)いやいや、ヘタレ雲雀さんを書くのは楽しいのですが、なんせなかなか行動してくれないから…しかもタイミング悪っ…て、自分で書いてるんですけどね(笑)最終的に初キスはツナからになりました。この後も二人はこんなん感じなんだろうなぁ。