□whitekiss
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 この場に花がいれば、焦れったさにヤキモキしたことだろう。
「それより疲れたろう、座ろうか」
「は、はい」
 ヒーターの傍にある木の長椅子に並んで腰掛ける。この時、雲雀はハッと気付く。
 誰も邪魔することのない場所で綱吉と二人きり…これは目標達成の絶好の機会だった。
 速くなる鼓動をなんとか抑え、雲雀は綱吉の手を握る。綱吉がピクリと反応した。
「雲雀さん?」
 手を握られることは初めてではなかったが、いつもと様子が違う。顔を上げると雲雀の顔が随分近くにあった。
「あ、あの…」
「綱吉…」
 顔は徐々に近付く。綱吉も流石に雲雀が何をしたいのかを察する。綱吉は真っ赤になったが、拒絶はしなかった。代わりにキュッと目を瞑る。
 雲雀は受け入れて貰えたことに内心ホッとした。拒絶などされたらきっと立ち直れない。
 二人の距離が縮まって行く。唇と唇が触れ合うまであと五センチ、四センチ、三センチ…そして、一センチを切ったその時…

「いっやぁ、まいったな!」

 言葉とは裏腹に、あまりまいってはいなさそうな元気の良い声が、扉を勢い良く開けて入って来た。
「ホント、いきなり吹雪んだもの」
「でもここに避難所があるの確認しておいて正解だったな」
 そんな会話をしながら、続いて複数の人間が入って来る。
 突然のことに、雲雀と綱吉は弾かれるように離れた。
 そこでようやく始めに入って来た人物が二人に気付く。
「ありゃ、先客がいたのか…悪い!驚かせたかな?」
「ああ、だからもうこんなにあったかいんだ」
「急に吹雪てお互い大変だったね…あれ、もしかして中学生?」
「っていうか、もしかしてカップル!?うわ、しかもすごく可愛いんだけど、この子達!」
「こらこら、そういうのやめろって…ごめんな、俺達は大学のスキー同好会で…」
 スキー同好会だという男三人女二人のグループは、先客である中学生らしいカップルを微笑ましく思った。それは、この吹雪に閉じこめられて、不安になったのだろう女の子が彼氏の腕にすがりついているように見えたからだ。
 …だが、事実は違う。綱吉は手を繋ぐことにやっと慣れてきたばかりだ。腕に手を回すなど、まだまだできない。
 この時、綱吉は必死に押さえていたのだ。ぼそりと「咬み殺す」と言って、愛用の武器を取り出そうとした雲雀を…
 一方、雲雀は複雑だ。綱吉が腕を組んできてくれたのは嬉しい。しかし、間近で綱吉の良い香りがすると先程のことを思い出し、もう少しだったのにと腹が立つ。目の前の群れを咬み殺したくなるが、そうすると綱吉が悲しむのだろう。
 そんな、綱吉の苦労や雲雀の葛藤、咬み殺されるかもしれなかった可能性も知らず、気の良い大学生のグループは中学生を不安にさせないようにと、陽気に喋り続け…

 …そうして夜が明けた。





 あれだけ吹雪いていたのが嘘のように穏やかな朝だった。
 送ろうかと申し出る大学生達に、綱吉が丁重なお断りを入れて二人はペンションに戻る。

「ツナ君!!」

 先ず出迎えたのは京子だった。花もやって来て綱吉の無事を喜ぶ。
「もう、あんたは心配させて!」
「ごめん、京子ちゃん、黒川」
 京子に抱きつかれ、花に髪をくしゃくしゃにされる。じゃれ合う少女達を少し離れた場所で見ていた雲雀に、草壁が労いの言葉を掛けた。
「ご苦労様でした。委員長」
 言いながら、草壁は雲雀の様子を窺う。
 眉間にシワ、口はへの字…

 ダメだったかー…

 どうやら、期待していたような展開はなかったらしい。
「ねぇ、出発まではまだ時間があったよね」
 今日はもう帰る予定だが、すぐに、という訳ではない。ペンションは今日いっぱいまで貸切にしてある。
「そう、じゃあ少し寝るよ。ほとんど寝てないんだ」

 ほとんど寝ていない?それはまさか…

 草壁は妙な想像してしまった。しかし、いやまさか…とそれを振り払おうとしたのだが…
「綱吉、君もあまり寝てないんだから、少し休みな」
 綱吉も寝ていない…まさかの思いが再び脳裏を掠める。見れば、京子と花もまさかの顔をしていた。
 言われて思い出したのか、急激に眠気に襲われて欠伸を噛み殺す綱吉を雲雀は手を引いて連れて行く。
 二人の姿が見えなくなると、残された三人は弾かれたように顔を見合わせた。
「ね、寝てないって…まさかのまさかよね…」
「吹雪の雪山できっと、不安だったんだよ!だから…」
「委員長が不安…」
 ありえない…それはありえなくて、三人は押し黙る。
「いや、でもあの沢田のことになるとヘタレになる雲雀さんよ!?ない、キスを飛び越えていきなりその先はないって!」
「そ、そうだな、それに、さっきは随分不機嫌だったし…」
「そうですよね!」
 三人は暴走した想像に笑顔で蓋をした。
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