□whitekiss
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 綺麗なシュプールを描きながら綱吉の近くで雲雀が止まる。
「綱吉、大丈夫?」
 声を掛ければ、やっと顔を上げた綱吉が、もう上から降りてきた雲雀を恨めしそうに見上げた。
「…一緒に始めたのに…うう…」
 また泣き出してしまった綱吉に、雲雀は慌てる。泣かれるとどうして良いのか分からない。驚異的な身体能力も、こんなときはまるで役に立たない。
「じゃあさ、沢田、雲雀さんに教えて貰えば?」
 颯爽と降りてきた雲雀が、泣く綱吉にオロオロするのを京子は微笑ましく、草壁が心配そうに見守る中、少し呆れて見ていた花が口を挟む。
「あ、そうだね!それが良いよ。ツナ君」
「ああ、そうだな!委員長、良いですよね」
 雲雀が滑れるようになったのだ。これで予定通り「ホワイト・ゲレンデで二人っきりラブラブ計画」を実行できるというものだった。
 雲雀と綱吉をその場に残して、各々自由行動に移る三人。
 しかし二人きりとは言っても、子供がソリに乗って横を通り過ぎて行くここではムードも何もないのではあるが…
「雲雀さん」
「何?綱吉」
 綱吉が珍しく厳しい顔で雲雀を見ていた。
「俺、がんばります!絶対に雲雀さんと滑れるようになってみせます!」
 どうにもこうにも、甘い雰囲気になりそうな気配はなかった。





 それから三日目。綱吉はヘロヘロとだが、滑れるようになってきた。本人はまだ不満のようだが、彼女の運動神経の無さを考えれば随分と上達したと言える。
 そして雲雀も不満だった。綱吉にスキーを教えることに文句はない。が、スキー場は人が多い、スキーが終われば張り切りすぎている綱吉は疲れているのか、食事中でさえ眠そうで、お風呂に入った後はふらふらパタンと糸が切れたように眠ってしまう。
 要するに、スキーの練習以外で二人きりになる時間が殆どなかった。
 草壁達にしても、例の計画が上手くいっていないことを知り、何とかしたいとは思うのだが、綱吉本人が珍しく頑張っているのであまり口を挟めないでいた。
 雲雀は焦る。明日はもう帰らなくてはいけないのだ。このままでは旅行中に綱吉とキス…という目標が達成できなくなる。
 しかし、一生懸命練習する綱吉の健気さに何も言えず、今日も真面目にスキー練習か、と思えたのだが…
 この日、午前中の快晴が嘘のように午後は荒れ模様になった。





 窓の外は吹雪で真っ白だった。外に出れば、一メートル先も見えないに違いない。
 京子は雪しか見えない外を見つめていた。その顔には不安が張り付いている。
 ここは彼女達が宿泊しているログハウス風のペンションだ。せめて泊まる場所くらいはと、草壁が貸切にしたので他の泊まり客はいない。そして今は雲雀と綱吉もいなかった。
 この吹雪の中、二人だけが帰ってこない。
「京子…」
 花が、窓から離れようとしない京子に呼び掛ける。
「そこにいたって仕方ないでしょ…」
「うん、でも…」
 分かってはいても、つい窓の外を気にしてしまう。雲雀の持っていた携帯電話で無事は確認していたのだが、やはり心配は心配だった。
「大丈夫だ。委員長が付いている。こういう時には一番頼りになる方だ」
 草壁には不安の色は殆どない。彼は本当に雲雀を信頼しているのだろう。
「沢田に対してはヘタレ気味だけどね」
「それは言ってくれるな…」
 冗談めかして言う花に、苦笑する草壁。京子もつられて笑う。
「でもさ、今度こそ本当に二人っきりよ。ちょっとは進展するんじゃない?」
「そっか、そうだよね」
「だと良いがな…」
 なにせくっつくまでが大変だった二人だ。草壁の別の意味での心配はまだまだ続きそうだった。





 その頃、雲雀と綱吉は、吹雪の中ではなく山小屋に避難していた。
 滑れるようにはなってきた綱吉だが、止まることはまだまだ下手で、雲雀が少し目を離した隙に滑るままに森の奥まで来てしまったのだ。とりあえず木に激突する前に追いついた雲雀に助けられはしたのだが、その直後に吹雪いてきたので帰るに帰れなくなった。雲雀だけならば何とかなったかもしれないが、綱吉を連れてこの吹雪の中長くは移動できない。そんな時に見つけたのがこの山小屋だった。
 山小屋と言っても、かなりしっかりとした暖房設備が整っているようで、入って扉を閉めればそれだけでもかなり暖かい。備え付けのヒーターを点ければ上着は要らないくらいだ。
「綱吉、大丈夫?」
 綱吉は先程から俯いて顔を上げない。
「…ごめんなさい…俺のせいで帰れなくなって…」
 どうやら、そのことで落ち込んでいるらしい。
「気にしなくていいのに…僕は…その…」
 ほんの少し、雲雀の頬に赤みが差す。
「綱吉と一緒ならどこでも楽しいよ」
 大分慣れたとはいえ、雲雀はまだこういったことをさらりと言えない。言われた綱吉も照れてもじもじとしてしまうのだ。
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