□whitekiss
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 こうして、雲雀の「す」からでた言葉が原因で、美味しい料理屋などを探すことがすっかり上手くなっていた草壁は、今回も良い感じのゲレンデと良い感じの宿泊先を見つけるべく奔走するのだった





 冬休み、雲雀と綱吉、草壁、京子、花の五人は計画通り、スキー旅行にやって来ていた。
 白いゲレンデが陽の光を受け、キラキラと輝いている。良い天気に恵まれた今季、スキー場は大賑わいを見せており、約一名にしてみれば…

「群れすぎ…」

 という状況だった。
 ぼそりと呟かれた雲雀の声は、幸い女性陣には聞こえてはいなかったようだ。草壁だけが聞き取って顔を青くさせたが、とりあえずは咬み殺すつもりはないらしい雲雀にホッと胸を撫で下ろす。彼としてはスキー場ごと貸切にでもしてしまいたかったのだが、風紀委員会でも流石にそれは無理な話だ。
 雲雀をこれ以上不機嫌にさせないためにも、綱吉は常に傍へと置いて置かなければならない。しかもなるべく二人っきりで…草壁は京子と花の三人で予定していた「ホワイト・ゲレンデで二人っきりラブラブ計画」ちなみに京子命名…を実行に移すことにした。
「笹川と黒川はスキー経験があるんだったな」
「はい、何度か」
「人並みには滑れるつもりだけど」
「そうか、沢田は初めてだったな」
 聞けば綱吉が不安な表情で頷いた。
「ならば、委員長。我々は適当に滑ってくるので彼女にスキーの手ほどきを…」
 ラブラブ計画などとは言っても、実は大したものではなく、彼女にスキーを教える彼氏というシチュエーションで良い感じに盛り上がって頂こうという単純なものだったのだが、ここで意外な事実がその計画を阻止した。

「僕もやったことはないけど」

 恐らく、草壁も京子も花も随分と間の抜けた顔をしていただろう。綱吉だけが嬉しそうだった。

「本当に?じゃあ、俺と一緒ですね!」

 一人だけ滑れないことに引け目を感じていたことと、付き合ってはいるが接点が少ない雲雀との共通点に綱吉は素直に喜んだ。しかし、他はそうはいかない。
「ちょっと、どういうこと、滑れないなんて聞いてない」
 花が草壁を肘で小突きながら、小声で問い詰める。
「俺も初めて知った…まさか委員長が…」
 草壁にとっても驚愕の事実だったらしい。なんだかんだ言っても彼は雲雀の信奉者だ。自分のとこの委員長にできないことがあるなど、あまり考えないらしい。
「でも、よく考えたらスキー場ってだいたい人がいっぱいだし、そういうとこでやるスポーツを雲雀さんはやらないよね」
 言われれば確かに、と二人は京子の意見に頷く。
「でもさー結局どうすんのよ」
「う…む…」
「残念だけど二人っきりはちょっと…ね…」
 滑れないとなると、流石に二人きりにしておく訳にもいかない。
「仕方ない。とりあえず滑れるようになって貰おう」
 結局、三人掛かりで雲雀と綱吉に教えることになった。

 そして小一時間…

「ふぎゃっ」

 乙女にあるまじきカエルが潰れたような悲鳴を上げながら、綱吉は顔面から雪に突っ込んだ。
「ツナ君、大丈夫?」
「沢田…これで転ぶの何度目よ」
「いや…スキーは転んで上手くなると言うし…」
 草壁はフォローするが、先程から上手くなっているようには見えない。流石は自他共に認めるダメツナと言ったところだろう。
「う…うう…う…」
 綱吉は突っ伏したまま泣き出してしまう。
「ちょっなにも泣かなくても…」
 キツく言い過ぎたかと花は慌てる。
「だっ…て、俺、なかなか…う、上手く、できなくて…みんなに迷惑かけて…」
「なに言ってんのよ。まだ始めて一時間くらいじゃない」
「迷惑じゃないよ。そんなにすぐ上手くなる人は滅多にいないんだし…」
「そうだ。そんな人間は…」
 草壁はスキー場の上、上級者コースを見た。
「あの方くらいだろう」



 雲雀はリフトを登りきった上にいた。子供連れの多い下と違い、混雑している様子はない。下を見ればかなりの傾斜があり、スキー上級者でなければ、滑るのは無理だろうことが伺える。少なくとも、始めて一時間の初心者がいる場所ではない。
 しかし雲雀は、そんな急傾斜をなんの躊躇もなく滑り始めた。
 それは、とてもスキー初心者とは思えない滑りだった。雲雀は確かに今までスキーをやったことはなかったが、それとできないことはやはり違うらしい。少しコツを教えれば、あっという間滑れるようになってしまったのだ。少し慣らしてくると、散歩にでも行くような気軽さで上級者コースに来て、あっさり滑って見せるのは流石、自分は他とは生き物としての性能が違う…とか言ってしまうだけのことはある。
 綱吉達がいる場所までまだ大分距離はあったが、雲雀の目は転ぶ綱吉を捉えていた。突っ伏したままなかなか動かない綱吉が心配になり、雲雀は更に加速する。
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