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□酒は呑んでも呑まれるな
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 場所はイタリア。最大規模を誇るマフィア、ボンゴレファミリーの本部。その更に奥まった所にある十代目ボスの執務室。
 本来最も強固に守られている筈のそこは、今や屍累々状態であった。
 しかも倒れているのはボンゴレ最強の守護者達とヴァリアーの面々、と来ればただ事ではない…筈なのだが、当の十代目、沢田綱吉は部屋のソファーで寛ぎ、大変ご機嫌な様子だった。その手には美しい琥珀色の液体の入ったグラス。前のテーブルには大量の酒瓶。
 恐らく今、綱吉が手にしているグラスの中の液体のウイスキーにウォッカ、ワイン、テキーラ、ビール、日本酒、焼酎に紹興酒…その他諸々、酒屋でも始めるのかと云うくらいの種類と量がそこには列べられていた。
 しかし、一番の驚きはその酒瓶の殆どが空であると云うことであろう。

 そう、彼等は襲撃などに遭った訳ではなく、ただ単に酔いつぶれているだけであった。

 ことの始まりは数年前に遡る。





 その日、突然やって来たヴァリアー達が親睦会と称する酒盛りをこの執務室でやり始め、やがて守護者を巻き込んだのだ。
 そしてその時初めて分かったのが、綱吉はザル…というか穴というか穴だった。
 それを面白がったベルが勝負を挑み潰れ、それ見ていたスクアーロが、だらしがねぇぞぉとか言いつつ呆気なく撃沈した。あとはもうなし崩し的にヴァリアーのみならず守護者達も落ちて行く…

 数時間後。酔いつぶれたボンゴレ幹部達と、その中で少し困ったようなボスを見つけた仕事帰りの黒衣のヒットマンは最初は呆れたものの、これは使えるな…とニヤリと笑ったとか…
 兎にも角にも、未だマフィアのボスらしからぬボンゴレ十代目の唯一それらしい特技がコレであった。





 以来、綱吉は度々この飲み会を開く。
 死ぬ気にならなくても彼等に勝てるものがあったのが少し嬉しくて、しかしそれ以上にたった一人を酔わせたい為に…なにせその人ときたら自分の酒量を心得ているために、二人で飲んでいる時は決して酔ってはくれないのだ。

 そして今、その人物は泥酔状態ながら辛うじて潰れてはおらず、綱吉の横に腰掛けていた。

「恭弥さん、恭弥さん」

 自分の部下であり、恋人である雲雀恭弥の名を綱吉は楽しそうに呼ぶ。

「眠いですか?俺の膝、貸しますよ」
「ん?ん〜うん」

 眠そうに目をこすり、雲雀は綱吉に笑いかけた。それは通常では有り得ない明るい無垢な笑顔。

「つなよしーだいすきー」

 そう言いながら綱吉に抱き付く彼は小さな子供のようだった。どうやら雲雀は酔うと幼児退行するらしい。
 そしてこれこそ綱吉が見たかったものなのだ。

「俺も大好きですよー恭弥さん」

 それを聞くと安心したようにズルズルと崩れ落ちる雲雀の頭を自分の膝の上に乗せ、綱吉はぽんぽんと寝かしつける。

 普段の恭弥さんはもちろん大好きだけど、たまにはこういうのも可愛くて良いよね。

 雲雀の髪を撫でながら、グラスに残った酒をまるで水でも飲むかのように空けながら、綱吉は御満悦であった。

 こうして、この日の飲み会もボンゴレ十代目の圧勝で幕を閉じたのだった。

end
 

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