◇◇◇

□プレゼント選びは慎重に
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「あ、草壁さん。こんにちは。あの…雲雀さんは…」
「ああ、はい。居ますよ」
 草壁は出入り口を塞いだ格好になっている大きな体を横にずらす。
「綱吉…」
 雲雀は処理中だった書類を投げ出し立ち上がる。やはり待っていたのだろう。
「あ、あの…昨日は梨をありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げて、綱吉は先ずお礼を言う。昨日は驚き過ぎて、何も言えなかった。
「すごく美味しかったです。それで、あの…えと…」
 綱吉は持っていた白い箱を掲げる。それはケーキを入れる箱だった。
「たくさん貰ったのでケーキにしてみたんです!良かったら一緒に食べませんか!」
 柔らかそうな頬を朱に染めて、綱吉は一気にそう言った。
「うん。食べる」
 即答した雲雀に、緊張していた綱吉の表情が緩む。隣で事の成り行きを見守っていた草壁の緊張も和らいだ。きっと雲雀の想いは叶うだろう。彼は二人の邪魔にならないように、そっと応接室を後にした。





 あれ以来、雲雀と綱吉のお付き合いは順調に進んだのだが、草壁にはちょっとした疑問があった。それは、綱吉があのプレゼントのどこに心を掴まれたのかということだ。
 それを綱吉本人から聞けたのは、数年後のことだった。
「ああ、あれはですね〜…」
 綱吉は当時のことを、クスクスと笑いながら話してくれた。




 梨と書かれたデカくて重い段ボール箱を抱えながら、綱吉は去って行く雲雀を呆然と見送っていた。我に返ったのはその姿が見えなくなってからだが、混乱した思考はそのままだった。
 好きだと言われた。恋人になってよとも…

 雲雀さんが俺のことを好き?え、待って、なんの冗談?いや、でも雲雀さんがそんな冗談言うはずが…こいびとって、恋人?鯉人?コイビト?

 思考回路は混迷するばかりで、答えどころか意味すら上手く掴めない。それでもなんとか家の中に入り、貰った梨をとりあえず母に預ける。部屋に戻り着替えを済ませると、友人達がやってきた。綱吉の誕生日を祝うためだ。みんなの前で混乱したままではいけない。綱吉は突然舞い降りたこの大問題を一時保留することにした。
 母の作った美味しい料理とケーキで、ささやかながら誕生日パーティーが開かれる。楽しい時間はあっという間に過ぎて、あまり遅くならないうちにパーティーはお開きになった。
 後片付けをしてから、お風呂に入る。入りながら雲雀の告白のことを考えてみたが、やはりまだよく分からない。
 考え過ぎて長湯してしまったお風呂から出ると、母が台所から顔を出し手招きする。
「ツナ。あの梨を切ったから食べなさい」
「え?あ、うん」
 台所に入った綱吉を座らせて、母は器に盛った梨を出した。
「明日になるとランボちゃんが見つけて食べちゃうから…」
「うん。でもたくさんあるからランボでも全部は…」
「そうね。でも最初に食べるのはツナじゃなきゃダメよ」
 どうやら母は、雲雀の告白を聞いていたらしい。気恥ずかしくはあったが、言うことはもっともなので綱吉は素直に梨を頂くことにした。
「…あ、なんだこれ。すごく美味しい」
 それは今まで食べたどの梨よりも甘くジューシーで美味しかった。
「あら、やっぱり?手に取っただけでも良い匂いがしたから…それをくれた子はツナのために一生懸命選んでくれたのね」
「…うん」
 雲雀が一生懸命に梨を選ぶ姿が思い浮かぶ。
「…ふ、ふふ」
「ツナ?」
 急に笑い出した娘に母は首を傾げた。
「母さん。梨を使ったケーキって前に作ってくれたよね。あれを教えて」
 娘の意図が分かったのか、母もクスリと笑い、いいわよと快諾してくれる。
「ちょうど今日作ったケーキの材料が余ってるから、すぐにできるの教えてあげる」
 こうして、美味しい梨は美味しいケーキとなって翌日雲雀の下へ届けられることになったのだった。





「好きな人の誕生日に梨一箱とか、びっくりですよね。でもね。あのとき気付いたんです。俺、雲雀さんのそういうとこ好きだなぁって」
 満面の笑みで話してくれた綱吉に、やはり女心は分からないと草壁は苦笑するしかなかった。

end
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