◇◇◇

□プレゼント選びは慎重に
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 学校を出て綱吉宅に向かっていると、友人達と一緒に歩く本人を見つける。途中、その友人達とは別れ綱吉一人だけになった。
 彼女の家はもうすぐそこだ。追ってきたのは良いが、雲雀が居なければ草壁にはどうすることもできない。もう一度連絡してみようと、携帯を取り出したとき。

「何やってるの?君」

 真後ろから声が掛かった。草壁は大きな背中をビクッと揺らす。
「い、委員長!」
 振り返ると、そこには待ちに待った雲雀が居た。
「どこに行ってたんですか?間に合わないかと思いましたよ」
「ああ、コレを探してたんだ」
 雲雀が言うコレが何のことかはすぐに分かった。彼は大きな段ボール箱を抱えている。その箱には、梨と書かれていた。
「……梨…ですか?」
「梨だよ。プレゼントだからね。納得できる良い梨を見つけたかったんだ。梨農家を何軒も巡ったよ」
「はぁ…」
 それで何日も帰らなかったのかと草壁は納得…できるはずもなかった。何故に梨。そこが分からない彼は、思考回路を全力にしてプレゼントに関する会話を思い出す。そして一つの結論にたどり着いた。
「委員長…もしかして、沢田さんに欲しいものを食べ物限定で訊きましたか?」
「うん。というより今なにが食べたい?って訊いたよ。君、プレゼントには食べ物が良いって言ってたから」
 ああ、やっぱり。と草壁はガクリとうなだれる。確かに、食べ物なら気兼ねなく受け取れますしと言った後に、訊いてみるのはどうでしょうかと言った。その会話の流れがどうしたことか、雲雀の中でワンセットになってしまったわけだ。
 そして訊き方もまずかった。好きな食べ物ではなく、今食べたい物を訊かれて、綱吉は困惑したに違いない。そして今が旬であり、店頭やテレビでも見かけることが多くなった梨を何となく言っただけなのだろう。
 しまった。もう少し的確なアドバイスができたならと悔やむ草壁だったが、ふと、これはこれで有りなのではと思い直す。今食べたい物に梨を上げたのなら、好きなのは確か。ならば綺麗にラッピングして渡せばちょっと変わっているが外すことはないプレゼントだ。
「委員長。その梨、すぐにラッピングを…ん?」
 顔を上げた草壁の前に、雲雀は居なかった。慌てて振り返ると、いつの間に移動したのか、ちょうど家に着いた綱吉に声を掛けているところだった。
「綱吉」
「雲雀さん?」
 久しぶりに会った雲雀に、綱吉は驚いた様子だ。
「お久しぶりですね」
「うん。君、今日が誕生日なんだよね」
「え?は、はい。覚えてくれてたんですか?」
 綱吉は表情に嬉しさを滲ませる。誕生日を覚えて貰えて嬉しくないはずはないだろう。ここまでは良い。ここまでは…これから起こるだろうことを、草壁はもう見守るしかなかった。
「これ、誕生日プレゼント」
「はい?」
 ずいっと段ボールを渡されて、綱吉は素直に受け取った。
「ふぉう!?」
 だが、その重さに思わずよろける。雲雀だから普通に持っていたが、中学生の女の子に段ボールいっぱいの梨は重すぎる。だから数個選んでラッピングしたかったのにと、草壁は頭を抱えた。
 しかし雲雀は、草壁でさえ読めない男だった。
「綱吉…」
「ふぁい?」
 重い梨箱をなんとか持ち直し、綱吉は顔を上げる。

「君が好きなんだ。僕の恋人になってよ」

 綱吉の大きな瞳がまん丸に見開かれた。口もあんぐりと開き、言葉もなく雲雀を見つめている。
 草壁も同じように、目を見開き口を開けていた。まさかいきなり告白までするとは思わなかった。最早、結果がどう転ぶのか、彼にもまったく想像がつかない。
「返事は急がないから、また今度でいいよ。じゃあ…」
 ぽかんとしている綱吉に、今すぐ答えを出すのは無理だと分かったのだろう。雲雀は踵を返し草壁の居る方へと歩き出した。そして同じくぽかんとしている彼の横を通り過ぎ、学校へと戻って行く。草壁が我に返ったのは、その後ろ姿が大分遠くになってからだった。





 翌日。電撃的な告白から一日が経った。今日も雲雀はいつも通り。気に入らない群れを咬み殺し、風紀を正し、書類整理をサクサクこなす。変わりないように見えるが、今日は綱吉のところにまだ行っていない。返事は急がないと言った手前、流石に会い辛いのだろうか。
 普通に見えてもどこか落ち着かない雲雀を草壁はどうすることもできず、彼もまた落ち着かない心を隠して、いつも通り仕事をする。
 処理済みの書類を雲雀から受け取り、草壁は応接室を出るためドアノブに手を掛けた。その時、扉の向こうから小さなノックの音が聞こえた。まさかと思い、そのまま扉を開ければ、ノックをした小柄な人物は驚いて草壁を見上げる。予想通り、それは綱吉だった。
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