◇◇◇

□郵便受けのプレゼント
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 きっぱりと言い切られた男子は、オロオロと落ち着かなくなった。
「や…ほら、みんな盛り上がってるからさ…その…冗談。うん冗談!」
 両手を降って悪意はなかったことを強調すると、彼は逃げるようにこの場を去って行った。
「…ああ、なんだ。からかわれただけかぁ」
 彼が贈り主を装う理由が分からず戸惑っていた綱吉は、からかわれたことに、むしろ安心していた。
「沢田、本当にそれだけだって思うの?」
「へ、なんで…?」
 ジッと見つめてくる花に、綱吉は呆けた表情を返す。すると、思いっきり溜め息を吐かれた。京子は笑っているが、どこか困った様子だ。
 花も京子も、そしてクラスメートのほとんどは分かっていた。嘘でもなんでも、彼は綱吉のヘアピン王子に本気でなりたがっていたことを…
 綱吉は学校一の美少女と名高い京子の隣に居ても、遜色ないほど可愛らしい容姿の持ち主だ。しかし、本人が自分の見た目に興味がなく、しかも長い間、自信というものを持てない生活をしてきたので、自分がそこそこモテるという事実をよく分かっていない。
「アンタって、嘘は簡単に見破っちゃうのに、どうして色恋沙汰には鈍いのかしらね?」
「本当にね。でもそれがツナちゃんだから…」
「なっなんなんだよ?二人とも言ってることがよく分かんないんだけど…」
「とにかく、ああいう輩はまだ現れると思うから、気をつけなさいってこと」
「そうそう。ツナちゃんは騙されないだろうけど、しつこくされるようならちゃんと言ってね」
「え?分かった。けど…」
 そんなに何人も自分をからかうような暇人がいるとは思えない綱吉だったが、ヘアピンを付け始めてから三日目。贈り主を名乗る男子生徒の数は、指の数では足らないほどになっていた。





 学校内において、そこだけは常に静かだった。元気の有り余った男子も、おしゃべりが好きな女子も、その場所の近くを通るときには息を潜める。騒いで彼に目を付けられでもしたら、大変な目に遭うことを知っているからだ。
 そこ、応接室には主が居る。この学校の…いや、並盛の街の主、風紀委員長の雲雀恭弥。
 彼は今、書類整理の傍ら、副委員長の草壁哲矢から近況報告を受けていた。並中生のほとんどは知らなかったことだが、雲雀はこの三日間所用で街を空けていたのだ。
「…この他、特に大きな騒動は起きていませんが…」
 今まで淀みなく報告していた草壁が、僅かに間を置く。これを報告すべきか彼は迷ったが、いずれは耳にはいることと、自分の口から確かな情報を伝えることにした。
「沢田さんが…」
 今まで書き物をしていた雲雀の手が一瞬止まる。
「三日ほど前から、ヘアピン付けてきているのですが…」
 ピクリと反応する雲雀に、草壁の中でこの三日間、もしかしてと思っていたことが確信に変わった。しかしそのことは口にせず、彼はヘアピンに関する噂とそれによって何が起こっているかを話す。
「幸い名乗り出た偽物達は沢田さんの超直感で嘘だと見抜かれていますが…」
 ここで、草壁はチラリと雲雀を窺い見る。その表情は険しく、剣呑なオーラが全身から噴き出しているようだ。
「ねぇ…」
「はい」
「その偽物とやらの名前をリストアップしておいてよ」
「承知しました」
 何故とは聞かない。どうするのかなんて決まっている。
「見回りに行ってくる。後は頼んだよ」
「はい」
 唐突な見回りにも、草壁は驚かなかった。正確には見回りではなく、どこに行こうとしているのかもなんとなく分かったからだ。
「行ってらっしゃいませ」
 草壁は雲雀の健闘を祈りつつ、その背中を見送った。





「違います。貴方じゃありません」
「いやいや、なんでそんなこと分かるの?勘だけで違うってヒドくない?」
 そんなやり取りをしながら、綱吉はしまったなぁと後悔していた。昼休み、ちょっとした用事があり一人で教室を出たのだが、あまり人の通らない階段で自称ヘアピン王子に会ってしまった。これがまたしつこいタイプの人間で、しかも三年生。上級生相手にあまりキツいことも言えない。
「せっかく君のために選んだのにぁ。証拠もなしに否定されたくないね」
 証拠。それはあるのだ。というか、一発で嘘か本当かが分かる質問がある。
「じゃあ、このヘアピンを包んであった包装紙は何色ですか?」
「え?…あ…え〜と、あ、赤…かな?」
 迷っている時点で嘘だと分かった。しかも赤ではない。ヘアピンが包まれていたのは、綺麗な図柄の千代紙だった。流石にこれは贈り主本人でなければ分からないだろう。
「違います」
 きっぱり言って、踵を返す。もう諦めるだろうと思ったのだが、この三年生のしつこさは綱吉の予想を上回っていた。
「ちょっと待てって!」
「なっ…」
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