◇◇◇

□郵便受けのプレゼント
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「あ、だから付けてきたんだ。これ見たら贈り主が名乗り出てくれるかもしれないから…お礼を言いたくて…」
「お礼って…変なヤツだったらどうするつもりよ」
「でも、リボーンもそうしろって…」
 花の心配はもっともだ。綱吉も考えなかったわけではないが、直感は大丈夫だと告げている。そこに、綱吉の家庭教師、リボーンが後押ししたのだから、危険はないと思ったのだ。厳しく、時にはとんでもない無茶を言い出す家庭教師だが、危険を察知する能力は高い。
「リボーンちゃんが…じゃあ、大丈夫かなぁ」
 少なからずリボーンについて知っている京子は納得するが、花はまだ心配げだ。
「分かった。無理に止めろとは言わないけど、何かあったらすぐに話すのよ」
「うん、ありがとう」
 厳しいことも言うが、自分を心配してくれる優しい友人に綱吉は照れた笑いを返す。その時、後ろから声がかかった。
「沢田さん、ごめん。今の話聞こえちゃったんだけど…」
 近くに居た数名の女子グループの生徒が、興味津々な様子でこちらを見ている。
「そのヘアピンをくれた人を探すんだよね」
「え?探すっていうか、名乗り出てくれたらいいな…って…」
「うんうん、それでね…」
 無理に探そうとは思っていない綱吉の意志は、妄想が暴走してしまっている彼女達には伝わっていないようだった。
「ヘアピンの人は沢田さんが好きなんだと思うのよ!」
「…へ?」
「きっと照れくさかったのね。だから直接渡せなかったのよ!」
「い、いや…ちょっと待って。そもそも男か女かも分からな…」
「あら、男よ。女はこんなことしない。直接渡して喜んでくれるとこ見たいもの」
 その自信はどこからくるのだろうか。しかし、妙な説得力があるのも確かだ。
「ちょっと、今の話、他の人に話して回らないでよ」
「そうだよ。ツナちゃんは無理に探す気なんてないんだから」
 いつの世も、女性は恋の話題が大好きだ。その力強すぎる妄想力は、時として大きな尾ひれが付いて一気に広まる。それを懸念した花と京子は釘を差すが、彼女達は分かってると言いながらもその話をしたくてウズウズしている様子だ。
「残念ながら沢田、しばらく噂になることを覚悟しておいた方がいいかもよ」
 これは駄目だと花は諦める。
「ええ〜!?」
 綱吉は情けない叫び声をあげる。それと同時に、始業を告げるベルが校内に鳴り響いた。





 花の懸念通り、噂はあっという間に広がった。その主な内容は、郵便受けにプレゼントのヘアピンを置いていった人物を綱吉が探しているというものだ。探しているわけではないが、あまり大きな尾ひれは付いていない。ただ、呼び名が問題だった。

「ヘアピン王子ってなんなんだよ!!」

 綱吉が鋭くツッコム。プレゼントの贈り主のことらしいが、いったいどの時点でそう呼ばれるようになったのか、翌日にはヘアピン王子で定着していた。
「ていうか、なんでもかんでも王子をつければいいってもんじゃないだろ!」
 最近はかなり下火になったとはいえ、王子を付けたがる傾向はまだ根強いようだ。
「これじゃプレゼントしてくれた人だって、恥ずかしくて名乗り出てくれなくなるよ」
「本当に照れ屋さんだったら尚更だよね」
 嘆息する綱吉に、京子は苦笑いで応える。しかし花は少し違う考えのようだ。
「いや、名乗り出てくる人は多いかもよ」
「…多いって?」
「もちろん、本物かどうかは別としてだけど」
「どういうこと?」
 綱吉はその意味がよく分からず首を傾げるが、京子は察しがついたようだ。
「それはあるよね」
「でしょ。チャンスだもの」
「いや、だからどういう…」
「沢田!」
「は、はい?」
 京子と花の会話について行けず、戸惑う綱吉に誰かが声を掛けた。振り返ると、クラスメートの男子が緊張した面持ちで立っている。
「え〜と、さ…」
「うん、なに?」
「俺なんだ」
「へ?」
「そのヘアピンを郵便受けに入れたのは俺なんだ!」
「…………」
 意外にも早く見つかったヘアピン王子。クラスメートが興味津々の様子で聞き耳を立てた。しかし喜んで良いはずの綱吉は、困惑顔で沈黙している。
「…え、あ…あの…でも…」
 やっと口を開いたかと思えば、何やら言いにくそうに、あのとでもを繰り返す。そんな綱吉に何かを察したのか、京子と花が目配せした。
「ちょっと待った。アンタ本当にヘアピンの贈り主?言っておくけど、この子に嘘は通用しないわよ」
「ツナちゃん。この場合、ハッキリ言っちゃっていいと思う」
 花が綱吉と男子の間に入り、京子が後押しする。
「う、うん…彼じゃない」
 綱吉は躊躇いながらも、今度ははっきりと言った。
「ヘアピンをくれたのは違う人だ」
 何故この男子がそんな嘘を言ったのか、綱吉にはさっぱり分からないが、彼女の超直感は違うと告げている。
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