◇◇◇

□白い日には白い物
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 そもそもお付き合いって、どうすればいいのかな?

 恋愛初心者な綱吉は、先ずそこが分からない。それでも、少ない知識を総動員させて雲雀とのデートを想像してみる。
「…………うっ…わぁ…」
 公園を歩きながら、自分に優しく笑いかけてくれる雲雀。なんてものを想像してしまい、綱吉は急に恥ずかしくなった。耳まで赤く染めて、ベッドの上を転げ回る。想像だけでこれなのに、お付き合いなんて本当にできるのだろうかと、自分でも心配になってしまう。
 しばらくジタバタした後、なんとか落ち着き、赤くなった顔を冷まそうと手で仰いでいたときだ。何の前触れもなく外側から窓が開いた。
「へ!?」
「やあ」
 驚く綱吉に軽い挨拶をしながら、窓を開けた人物、雲雀は当たり前のように窓から入る。
「ひ、雲雀さん!?」
 突然やってきた想い人に驚くと同時に、デートの想像を思い出してしまい、せっかく治まりかけていた顔の火照りがぶり返す。
「ど、どどどうしたんですか?朝から出掛けてるって…き、きいたんですけど…」
 雲雀の前だとまだ緊張してしまう綱吉は、なかなか顔も上げられない。目だけでチラリと見上げれば、想像よりもずっと綺麗な顔がそこにあって、心臓が大きく鳴った。
「これを取りに行ってたんだ。はい、あげる」
「え、あげるって…?」
「今日はホワイトデーだから、バレンタインのお返しだよ」
 雲雀から、風呂敷に包まれた長方形の平たい箱を受け取りながら、綱吉は驚きと喜びに感動していた。
「あ…ありがとうございます!」
 少し震える声で礼を言う。貰えなくても良いと本気で思っていたのだが、やはり嬉しさが込み上げてきて涙が出そうだった。
 受け取った箱を、そっと膝の上に置く。見た目よりも重いと感じた。綱吉が何だろうと思っていると、雲雀は開けてみてと促す。
「いいんですか?」
「うん」
 期待と少しばかりの不安を感じながら、風呂敷の結び目を解くと、中から出てきたのは木造の箱だった。それをそっと開けてみる。
「…う、わぁ…」
 思わず感嘆の声が漏れた。中には、美しい白が広がっていた。しかもよく見れば、ただ白いのではなく、とても綺麗な刺繍が施されている。
「これ、着物ですか?」
「白無垢だよ」
「しろ…むく?」
 その手のことに詳しくない綱吉は、白無垢と言われてもピンとこない。
「花嫁衣装だよ」
「へぇ、花嫁いしょ…………」
 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。うっかり受け流そうとした言葉が詰まる。
「うん、花嫁衣装。これを着て僕のところにお嫁に来ればいいよ」
 綱吉は混乱する。自分達はようやくお互いの気持ちを確かめ合っただけではなかっただろうか。お付き合いもまだで、デートなんて想像の中だけで…
 春爛漫。お花畑だった綱吉の思考が現実に引き戻される。
 そうだった。自分が好きになったこの人は、群れが嫌いで口癖は咬み殺す。戦うことが大好きな、常識なんて通用しない並盛最強の風紀委員長、雲雀恭弥だった。
「あ、あの…俺はまだ…」
 お嫁さんなんてまだ早い。お付き合いから始めましょう。そう言うつもりだった綱吉の肩に、雲雀は白無垢を掛ける。
「ああ、やっぱり良く似合うね」
 幸せそうに雲雀が微笑む。その笑顔に魅せられて、綱吉はもう何も言えなかった。非常識でも、彼女が好きになったのは彼なのだ。
 その人がホワイトデーに贈ってくれたものを受け取れないはずもなく、この日、お付き合いも始まらないまま綱吉は雲雀のお嫁さん決定となったのだった。

end
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