◇◇◇

□白い日には白い物
2ページ/3ページ

 京子にまでそう言われてしまうと、特に不満はなかった綱吉も心配になる。眉を下げて大きな瞳を不安に揺らす。
「あ、ダメとかじゃなくてね…」
「いや、ダメっていうか…」
 京子も花も綱吉を不安にさせたいわけではない。しかし雲雀が居ない今、これ以上この話しを続ければ綱吉の不安を煽るだけのように思われた。
「とにかく、付き合ってくださいっていうのも言った方がいいわよ」
 花がそれだけ助言して、この話しはお終いになる。
 この後は取り留めのない話しで盛り上がりながら、彼女達は学校を後にした。いつもの帰り道を歩き、途中、綱吉、京子と別れた花は一人になった。
 大分傾いてきた日差しが街を柔らかく照らし出す中、慣れた住宅街を歩く。そのとき、目の端を黒い影が横切った。
「え?」
 思わず見返す。それは学ランの裾だった。
「雲雀さん!?」
 つい、大きな声が出てしまい慌てて口を押さえたが、遅かった。雲雀はこちらに気付いてしまったようだ。
「君、確か綱吉の…なにか用?」
 しかも顔を覚えられている。
 花は焦ったが、同時にこれはチャンスだと度胸を決める。
「あ、あの…沢田のことなんですけど…」
 綱吉の名前を出すと、今まで興味なさそうな態度だった雲雀が反応した。自分の顔を覚えていたことといい、綱吉に興味がないわけではなさそうだ。
「ええとですね。今日はホワイトデーなんです」
 とりあえず、そこから切り出す。付き合う気があるのかはまた後だ。
「あの子は好きだと言って貰えただけで満足だって言ってますけど、友人としてはちょっと心配というかなんというか…」
 話しながら、視線が痛いと思った。睨まれているわけではないのに、怖いのだ。しかし、今更止めることはできない。
「雲雀さんはホワイトデーなんて興味ないかもしれませんが、せめてお菓子くらいは返し…」
「バレンタインのお返しなら用意したよ」
「て…は?」
 返してあげてください。という花の言葉を遮って、雲雀は思わぬことを言う。
「え?お返しを…ですか?」
「そうだよ。ホワイトデーは白い物を贈るのが良いって聞いたから、これしか思いつかなかったのだけど…」
 そう言いながら、雲雀は手にしていた風呂敷包みに目を向ける。
 それは、かなり大きな長方形なのだが、その大きさの割には高さがない。どうやら平たい箱のようだ。しかし、問題はその中身だろう。少なくともお菓子ではなさそうだった。
「仕上がりに時間がかかってね。朝から取りに行っていた」
「はぁ…そうなんですか…」
 花は気が抜けるのを感じた。どうやら自分が考えていた以上に、雲雀は綱吉のことを想っているらしい。
「綱吉はもう家に帰ったの?」
「あ、はい。そろそろ着いてると思います」
「そう、君も早く帰りな」
「はい」
 綱吉の家の方へと向かう雲雀を確認してから、花は再び歩き出した。雲雀があれを渡して、綱吉がちゃんと付き合ってくださいと言えば、今度こそ名実共にカップル成立だ。花の気苦労も一つなくなる。
 軽い足取りで帰路に着きながら、花はお返し中身を考えていた。

 あれ、何だろう?なんかどっかで見たことあるような…確かお正月に…

 お正月の記憶を思い出せる限り辿る。そして、ようやく似た物を見つけ出した。
「そうか。振袖が入った桐箱に似てるのよ」
 お正月にだけ出されるその箱に、大きさも形もそっくりだった。だとすれば、あれも着物なのだろうか。
「でも、雲雀さんの口ぶりだと白い物よね?白い着物…」
 人生において、白い着物を着る機会は限られている。産まれて間もない頃に着せて貰う産着や、亡くなってから着せて貰う死に装束。しかし当然この二つではない。となると、思い当たる物は一つだけ…
「まさか…」
 花は足を止めて振り返ったが、雲雀の姿はすでになかった。
 綱吉の場合、思いがけず想いが実ったために、その後のことまで考えられなかっただけだが、雲雀はどうなのだろう。もしかしたら、お付き合いなんてものはすっ飛ばして、とんでもなく先まで考えているのではなかろうか。
「大丈夫なのかしら?あの子…」
 少し前とはまた違う心配を、花はしなければならないようだった。





 京子、花と別れて帰宅した綱吉は、着替えも忘れて自室のベッドに座り、花から言われたことについて考えていた。

 今更付き合ってくださいなんて言うの恥ずかしいなぁ…

 バレンタインのときに言っておけば良かったのだろうが、綱吉は絶対にふられると思っていたのだ。それ以外の返事がくることも、それから先のことも、まったく考えてはいなかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ