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□年賀状に想いを込めて
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本格的にやっていたという言葉通り、彼が撮ったものはすべて年賀状に使いたいくらいだ。
感心しながら次々に写真を見て行く綱吉の手が、不意に止まった。そこには、雲雀と一緒に騎乗している姿が映し出されている。
乗ってるとこも撮ってたんだ。でも、なんかこれって…
広いとは言えない馬の背に乗っているのだから仕方ないのだが、二人はピタリとくっついている。端から見れば恋人同士のようで、それが綱吉には気恥ずかしい。写真を見て行く速度が自然と早まった。
しかしその手が再び止まる。それは、雲雀に落ちそうだからと抱きしめられたときの写真だった。
うわ!?な、なんでこれまで…
思っていた以上に恥ずかしい姿勢に、顔から火が出そうだ。しかも、後ろから雲雀もそれを見ていた。
恥ずかしい!恥ずかしすぎる!!
止まっていた手を大急ぎで動かし、写真を次々に送る。ようやく、降りた後に撮ったらしい馬だけの写真に変わり、綱吉はホッと息を吐いた。
「ふぅん。本当に良く撮れてるね」
「そ、そうですね」
「僕もそのデータ欲しいな」
「へ?あ…」
「それで僕も年賀状を作って君に送るよ」
「ホ、ホントに?」
「うん」
雲雀からの年賀状なんて、かなりレアだ。綱吉は素直に喜んだ。
「え〜と、じゃあ家に帰ってから…」
データをコピーできるものを用意していない。一度家に戻らねばと思った綱吉の手から、雲雀はヒョイとデジカメを取り上げた。
「コピーなら此処の事務所にあるパソコンでできるよ」
そう言って、雲雀はデジカメを調教師に渡してしまう。
「じゃあ、お願い」
「はい。ではお預かりします」「あ…」
コピーする前に、あの恥ずかしすぎる写真をどうにかしたかった綱吉だが、雲雀を待たせてはいけないと急ぐ調教師を止めることができなかった。
ま…いいか。雲雀さんは気にしてないみたいだし…
そのことに奇妙な寂しさを感じた綱吉だが、それが何故なのかまでは考えもしなかった。
雲雀と乗馬倶楽部を訪れてから一ヶ月。何かと忙しい年末はあっという間に過ぎ去り、年は無事に明けた。
元日。朝から友人達と初詣に出掛けた綱吉が帰宅すると、既に年賀状が届いていた。
俺のも無事に届いたかな?
そんなことを思いながら、自室に戻った綱吉は一枚一枚に目を通す。その中に雲雀のものを見つけて、綱吉の表情が綻んだ。
「雲雀さん。本当にくれたんだ。どの画像を使ったんだろ?」
ちょっとワクワクしながら宛名の書かれている面をひっくり返した綱吉だが、それを見た瞬間、凄まじい衝撃に襲われ固まった。
「…………な、なな…なんでっ!?」
硬直が溶けると、耳まで一気に赤くなる。年賀状を勢い良くテーブルに伏せた。
「なんでよりにもよってコレなんだ!?」
年賀状には、綱吉が恥ずかしすぎると思った例のアレが使われていたのだ。
「な、なんかの嫌がらせか?」
しかし雲雀は嫌がらせをするような人間ではない。気に入らなければその場で咬み殺すだろう。
「これを見て次は落ちないように研究しろってこと?」
だが、写真一枚でそんなことが分かるはずもなかった。
「いったいなんだっていうんだー!?」
頭を抱えて叫ぶ綱吉の横から、小さな手がヒョイと年賀状を持って行く。
「なんだ。アイツやっと自覚したのか」
ぼそっと呟いた赤ん坊姿の家庭教師は、自分にまったく気付いていない教え子を仰ぎ見る。
「こっちは当分無理そうだな」
悩む教え子に呆れた溜め息を吐くと、小さな手は年賀状を元に戻した。
「ま、大変なのはこれからだろうがな」
「え?」
ここでようやく、綱吉は家庭教師リボーンの存在に気付く。
「今なんて言ったんだ?」
聞き返したが答えはなく、ニヤリとしただけでリボーンは部屋から出て行ってしまう。
「なんだよ。アイツ…」
閉められたドアを不満そうに見ていると、電話が鳴る音が聞こえた。すぐに応対した母親が、階下から綱吉を呼ぶ。
「ツナ〜。花ちゃんからよ〜」
「黒川?なんだろ…」
今日一緒に初詣に行った友人の一人、黒川花だ。少し前に別れたときはいつも通りだったが、何かあったのだろうか。
「もしもし、黒川いったい…」
「あんたいつから雲雀さんと付き合ってんのよ!?」
「…はぁ!?何言ってんの!!」
開口一番そう言われて面食らう。
「雲雀さんから年賀状が届いたのよ。で、そこに使われてる写真が…」
雲雀からとどいた年賀状。それで事態を察した綱吉から、見る間に血の気が引いて行く。
ま、まさかあの人…
そのまさかだった。綱吉にだけではなく、雲雀はあの写真付き年賀状を知人や関係者全員に出していたのだ。
「これさ、どう見ても恋人同士にしか見えないんだけど…」
「ち、違う!違うから!!」
必死に弁明するも、写真の前では言い訳にしか聞こえない。