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□年賀状に想いを込めて
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「ああ、来たね。あの子か…」
しばらくすると、厩舎から調教師の青年が一頭の馬を連れてやってきた。
「わぁ…」
綱吉の口から感嘆の声が漏れる。連れてこられたのは白馬ではないものの、栗毛色の美しい馬だった。
「綺麗ですね」
「うん。コンディションは良好みたいだ」
馬を褒められて嬉しいのか、調教師はにこやかに挨拶をした。
「撮影ということでしたので、大人しくて綺麗な子にしましたよ」
彼の言う通り、栗毛の馬は大変大人しく初めて会う綱吉が居ても落ち着いていた。
では早速と、先ずは馬のみを何枚か撮影させて貰う。気を利かせてくれた調教師が、馬と一緒に撮ってはどうかと提案してくれたので、お言葉に甘えることにした。
デジカメを調教師に渡して、恐る恐る近付く。すると、馬の方からそっと顔を寄せてきてくれた。大人しいうえに人懐こくもあるようだ。そうなると、もう可愛くて仕方ない。綱吉はしばらくの間、夢中で馬と戯れていた。
「乗ってみる?」
すると、今まで黙って見ていた雲雀がそう声をかけてくる。
「え?でも、乗ったことないですよ」
興味はある。この子のことも気に入った。しかし乗るとなると、やはり怖い。
「大丈夫。僕も一緒に乗るから」
「一緒に…」
迷ったが、ここまできたのだからやはり乗りたいと思った。それに雲雀のバイクよりは怖くないはずだと、綱吉は決心する。
「の、乗ります!」
「うん、じゃあ、用意しよう」
「あ、でも二人って大丈夫なのかな?」
心配そうに見上げると、まるで大丈夫とでも言うように馬は鼻を鳴らす。
「中学生二人くらい全然平気ですよ。二人乗り用の鞍を用意しますね」
こうなることを想定していたのか、調教師は手早く鞍の準備をしてくれた。用意が整うと、先ずは雲雀が手慣れた様子で馬に跨がる。そして綱吉に手を差し出した。
「掴まって」
「は、はい」
緊張しながら手を取る。すると、一気に上まで引き上げられた。
「ふぇぇ!!」
情けない声が出たが、気付けばもう馬上だ。どうやら無事に乗れたらしい。すぐ後ろに感じる雲雀の体温がなんとなく気恥ずかしかったが、目の前に広がっている景色を見ればそれもすぐに気にならなくなった。
「う、わぁ…高い。なんか乗ってるだけなのに自分の背が高くなったみたいです」
風が頬を撫でる。視界が広くなった気がした。高い場所に居るのとはまた違う感覚は、綱吉を感動させる。
「歩かせるよ」
「あ、は、はい!」
バイクの運転とは違い、ゆっくりと労るような歩き出しだ。しかしそこはやはり馬。かなり揺れる。
「お、おおう」
その揺れに一瞬バランスを崩し、後ろの雲雀に思い切り寄り掛かってしまう。
「す、すみません!」
「いいよ。危なくなったらこっちで支えるから、もっと楽にしてなよ」
「は、はい。ありがとうございます」
雲雀がそう言うのなら、落ちることはないだろう。綱吉にとって彼は怖い人であるのだが、同時に信頼も厚い。安心して任せられる。
そうしてしばらくすると、次第に揺れにも慣れてきた。
「楽しい?」
「はいっ!」
振り返り、満面の笑みで答えれば、雲雀も穏やかな笑みを返してくる。
「そう、気に入ったのならまた連れてきてあげるよ」
「良いんですか!?」
「うん、この子も君のことが気に入ったみたいだからね」
「そうですか?」
「そうだよ」
「そっか…へへ、嬉しいです」
照れくさそうに、ふにゃりと笑う。その表情は大変可愛らしい。雲雀はそれに魅入った。馬が歩みを止める。
「ふぇ!?ひ、雲雀さん?」
雲雀の腕が、綱吉を包み込むように回されていた。
「ああ、落ちそうだと思ったから」
「そ、そうですか?」
自分では分からなかったが、雲雀が言うのならそうなのだろう。一瞬抱きしめられたのかと思った綱吉は、自分の勘違いに頬を赤く染める。
だよな〜。でもびっくりした。心臓バクバクしてるよ…
深呼吸した。心臓の音が雲雀に聞こえたら恥ずかしい。
そんな綱吉の後ろで、雲雀は自分の手を眺めていた。先ほどまで彼女を抱きしめていた手だ。そして何かを確信したように、なるほどと頷く。
二人はその後も乗馬を楽しみ、十数分後、元の場所へと戻ってきた。馬から降りて、少し離れた場所で写真を撮っていた調教師のところへ向かう
「どうでしたか?初めての乗馬は」
「楽しかったです!」
「それは良かった。写真もたくさん撮っておきましたよ」
「ありがとうございます」
デジカメを受け取った綱吉は早速見てみる。初めの数枚は綱吉が撮った馬だけのもの。デジカメの性能が良いので、そこそこ綺麗に撮れている。しかし、続いて映し出された調教師が撮ったものは明らかに出来が違っていた。
「凄く綺麗に撮れてますね!」
「ありがとうございます。実は昔ちょっと本格的にやってまして、今でも趣味でよく撮るんです」