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□過去ss
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『ただ、それだけは祈るしかないもの』
綱吉の夫、雲雀恭弥という人間は、神や仏といったものを信じていない。当然、願掛けなどしたことなどない筈なのだが…
今日は七月七日、七夕だ。庭の笹には願い事が書かれた短冊が飾ってあり、綱吉も大きくなったお腹をさすりながら、短冊を飾りに庭に出た。
綱吉のお腹には子供がいる。しかも臨月だ。母親になる彼女が短冊に認めた願い事は当然、子供が無事に産まれますように…だ。
その短冊を笹のどこに付けようかと迷っていた綱吉は、見覚えのある筆跡を見つけた。
最初はまさかと思った。何故ならそれは、雲雀の字だったからだ。綱吉の夫は誰かに願うより、自分の力で行動する人間だ。そんな雲雀の願い事、それは…
安産祈願。
短冊には、流麗な字でそれだけ書かれている。綱吉は一瞬の驚きの後、クスクスと笑い出した。
「確かに、出産はどうしようもないよな〜」
準備を整えることはできても、実際に産むのは綱吉だ。雲雀といえども、見守るくらいしかできないだろう。
雲雀がこれを、どういう顔で飾ったのかと考えると可笑しくて、でも同時にとても嬉しくて、綱吉はホクホクとしながら自分の短冊も飾り付けたのだった。
end