◇◇

□雲雀家の結婚式
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「なにもないよ。ただ、綱吉が無事に終わればいいって願ったからそうなるだけ…君は本当に気に入られてる」
「へ?誰にですか?」
 やはり何がなんだか分からない綱吉の問いには答えず、雲雀は苦笑して白い人が居た方に目を戻す。しかし、そこにはもう誰も居なかった。






 その後、披露宴は滞りなく進み、無事にお開きとなったのだが、実は無事では済まなかったかもしれないことを綱吉は後から聞かされた。
「こ、殺し屋!?」
 ウェディングドレスから楽な服装に着替え、今日はもう遅いからここに泊まると連れてこられたホテルの一室。そこで、綱吉は悲鳴に近い叫び声をあげる。
「君は知らなくてもいいと思ってたんだけど、赤ん坊が教えておけとうるさいんでね」
 雲雀が話し始めた内容に、綱吉は青ざめていった。あの時、白い人と居た男は、ボンゴレと敵対関係にあるマフィアの殺し屋だったのだという。
「来るとは思ってたけど、あんなに近くまで潜入されるとはね。手引きしていた人間がいるらしいよ。今、赤ん坊が調べてる」
「来ると思ってたって…」
 やはり最初からただでは済まない披露宴だったのだ。思わず溜め息が出る。
「そういえば、あの白い人は?雲雀さんちの関係者だとばかり思ってたんですが…」
 綱吉にはあの人が殺し屋を止めてくれたように見えた。だとすると、ボンゴレの関係者だったのだろうか。
「いや、あれは家のだけど…綱吉。人って言ってるけど、違うよ」
「へ?違うって…」
「あれは人じゃない。君も見たはずだけど?」
 何やら話が妙な方向に向かっている。しかも、自分も見たとはいったいどういうことなのか。
「本来、人間同士の争いには無関心なはずなんだけどね。多分、綱吉を守るために家から出てきたんだと思う」
「あの…雲雀さん。それってどういう…」
「蛇だよ」
「は?…蛇!?」
「そう、あれは家の守り神だっていう白蛇」
「白…蛇…って…ええ!?」
 綱吉は以前、雲雀家の庭で見た美しい白蛇を思い出す。それは確かにあの白い人のイメージと重なるが、人の姿をした者が人ではないと言われても、ただただ驚くばかりだ。
「信じる信じないは綱吉の自由だけど、あの蛇のせいで家には面倒なしきたりが幾つかあってね」
 雲雀は綱吉の手を握ると、ベッドまで連れて行き、座らせた。
「例えば、男子は十六にならないと結婚できないとか」
 そして雲雀にとって、今日がその十六歳の誕生日だ。雲雀家のしきたりでは、ようやく結婚できる歳になったというわけだ。
「はあ、でもそれは別に困ったことではないような…」
 日本の法律では、男性の結婚は十八になってからだ。あまり問題はないように思える。
「確かにそれだけならね」
 雲雀は忌々しげに眉を寄せる。

「でも、家を継ぐ者は結婚するまで純潔を貫かなければならないっていうのは無理!」

 それが、雲雀の結婚を急いだ理由だった。
「じゅん…けつ?」
「要するに、結婚するまでセックスしたら駄目ってことだよ」
「セッ…って…なぁ!?」
 あまりにもはっきり言われて、綱吉の体温は一気に上昇する。顔から湯気が出そうなくらい熱い。
「な、な、なに言って…」
「雲雀家は女系一族だからね。家を次ぐのは女性が多かった」
 確かに雲雀家の現当主も先代も女性だ。雲雀は久しぶりに産まれた男の子だったらしい。
「だから、そんなしきたりができたのだろうけど、男の僕にも当てはめるんだから融通がきかないよね。僕も最初は古臭いしきたりを守るつもりなんてなかったよ。でも、君を押し倒そうとする度にあの蛇が邪魔をする」
「じゃ…邪魔?」
 邪魔なんてしただろうかと考えて、綱吉はふと思い出す。固まったように動かなくなった殺し屋。どこかで見たことがあると思ったが、あれは時々、雲雀が固まるのとよく似ていた。
「でも今は…」
 雲雀が綱吉の肩に手を掛ける。するとそのまま、柔らかなベッドへと倒れ込んだ。
「ふひゃ!?な…ちょ…」
「もう、邪魔は入らない」
 綱吉は油断していた。泊まると言ってもベッドは二つだ。何より、今まで雲雀はそういったことを何もしてこなかった。だから安心していた。まさかできなかっただけなんて、思いもしなかったのだ。
「雲雀さん!俺、まだ…」
「綱吉、今日は何の日?」
「え?何の日って…」
 今日はこどもの日。雲雀と綱吉の結婚式の日。そして…
「雲雀さんの…お誕生日です」
「うん、前に言ったよね。僕の誕生日には君を貰うって…くれないの?」
「う…」
 自分は誕生日プレゼントを貰った。ちょっと誤解もあったが、結果的には確かに希望のものだった。それなのに、自分だけは嫌はないだろう。
「うう…」
 しかし、まだ心の準備ができていない。結婚式と披露宴に気をとられていて、その次はまったく考えていなかった。
 結婚式の後の、初夜のことなんて…
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