◇◇

□雲雀家の結婚式
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 感動だったのだろうか。一言文句を言ってやろうと思っていた父親は、綱吉の花嫁姿を見るなり泣き出して、それどころではなくなってしまった。やっぱり嫁にはやらんとか言っていたので、悔し泣きだったのかもしれない。だったら披露宴なんて条件、持ち出さなければ良いものをと思ったが、仕掛けたのは恐らくリボーンなので、言っても仕方ないのだろう。
「で、肝心の花婿は?」
 言いながら、ビアンキが辺りを見回す。
「それがね。結婚式当日は式が始まるまで当人同士は会っちゃいけないんだって」
「あら、そうなの?変わってるわね」
 変わっているかどうか結婚式に詳しくない綱吉には分からないが、普通の神前式ではないらしい。何もしなくて良いから、挨拶にきた人に挨拶を返せばいいと言われていた。
「雲雀さんちのしきたりらしいんだけど…」
 何もしなくていいと言われると、逆にちょっと不安になる。
「あ、でも、それならそれで式が始まるまでの楽しみが増えていいですよね!」
 綱吉の不安を感じ取ったのか、ハルが元気良く喋りだす。先ほどから彼女達が明るくお喋りしているのは、綱吉の不安や緊張を和らげるためだったようだ。
「うん。みんな、ありがとう」
 自分を気遣ってくれる友人達に、綱吉は心からのお礼を言う。
 まだ戸惑いもある結婚式だが、ここまできたら腹を括るしかない。まだ十四歳の花嫁は、緊張で汗ばむ手をギュッと握り締めた。





 綱吉が花嫁の控え室で友人達とお喋りしていた頃、雲雀はようやく花婿の衣装に着替え始めていた。
「おや、一人で着替えるのですか。手伝いましょうか?」
 そこにやってきた聞き覚えがある声に、雲雀は思いっきり顔をしかめる。
「いらない。自分でできる」
 自分の方を振り向きもしない雲雀に気分を害した様子もなく、声の主、六道骸はクフフと独特な笑い方で返す。
「こんなときまで群れは嫌…ですか。ならば何故、結婚式なんて人が大勢集まることをやろうと思ったのでしょうね。あんな条件までのんで…」
 答えはない。雲雀は黙々と着替えを続けている。
「しきたり…とやらですか?」
 今まで顔も見ようとはしなかった雲雀が、ゆっくりと振り返り、骸に刺すような視線を送った。
「なんで君が…」
「クフッ!やっぱりですか?専門ではありませんが、そっち方面は術士としては多少知っておかなければならない分野ですからね」
 骸は実に楽しそうだ。雲雀は、今すぐにでも咬み殺してやりたい衝動をなんとか抑える。ここで暴れたりすると結婚式が駄目になる可能性があった。それは、彼にとって大変よろしくない。
「まあ、貴方にとっては厄介なものでも、他の方々には守りだったのでしょうね」
「どうでもいいよ。そんなこと」
 素っ気なく言って、着替えに集中した。からかっても、これ以上の反応が望めないことを悟った骸は、肩をすくめて部屋を出て行く。
「守りでもなんでも邪魔なだけだ。だけど、それも今日で終わる」
 一人になった部屋で、雲雀はぼそりと呟いた。





 結婚式が執り行われる部屋は、普段、襖で仕切られている。しかし今は、その襖が取り払われ、式場に相応しい広さとなっていた。そこで大勢の参列者達が、花婿花嫁の登場を待ちわびている。そのほとんどが雲雀家の関係者だ。
「おやおや、流石雲雀君ちですね。裏社会の人もちらほらいますよ」
「ああ、そうだな。もっとも、それよりも闇側の奴の方が多そうだがな」
 そんな招待客を眺めながら、骸とリボーンが何やら不穏な会話を始める。
「ほう、流石ですね。分かりますか」
「気配が違うからな」
「良いのですか?こんな人外魔境に綱吉さんを嫁がせて…」
「ある意味、ボンゴレも似たようなもんだ。むしろ、このくらいの方がちょうど釣り合っていい」
「クフフ、そうですねぇ…おや、始まるみたいですよ」
 前の方が慌ただしくなり、左右の入り口が開かれた。そこから花婿と花嫁が入ってくる。
 この日、ようやく顔を合わせた二人は、お互いの晴れ姿も初めてだった。雲雀母は息子を花嫁の衣装合わせには絶対に立ち入らせなかったし、綱吉は雲雀が衣装合わせをしたのかどうかすら知らない。

 ふ…ひょう!雲雀さんカッコいい!

 雲雀には和装が似合うだろうと思っていた綱吉だが、それは想像以上だった。今の状況も忘れて、ポヤンと見惚れてしまう。それは雲雀も同じだったようで、綱吉から目を離そうとしない。
「なにやってんだ。アイツら」
「どうせ、お互いカッコいいとか可愛いとか思ってるんでしょう。バカップルが…」
 リボーンと骸も呆れ顔だ。
 しばらく見つめ合っていた両者だが、周囲に促されてようやく座る。少し高い段の上で雛人形のように並んでいる二人は、とてもお似合いで可愛らしい。
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