◇◇

□雲雀家の結婚式
4ページ/8ページ

 ただ、披露宴だけは今でも止めたい。御披露目という目的も嫌だが、マフィアの集まりなんて絶対に何か良からぬことがあるに違いないのだ。実際、披露宴の方にはマフィアと関係のない友人は呼ばない方がいいと言われている。

 それって、絶対にヤバいんじゃん!

 そもそも、そんなものを交換条件として出してくる父も父だ。文句の一つも言ってやりたいが、家光とは現在まったく連絡がつかない。

 まったく…肝心な時に限って、いつもそうだよな。父さんって…

 溜め息を吐きながら顔を上げた綱吉の目に、以前見た白いものが映った。今度はすぐに消えたりせず、それが何なのか、はっきりと分かる。
「え?へ…へび?」
 それは、真っ白な蛇だった。数メートル先で、首を持ち上げ綱吉をジッと見ている。
 どちらかといえば怖いと感じる生き物のはずなのだが、何故か今の綱吉に恐怖心はない。それほど美しい蛇だった。純白の鱗が光を反射して、幻想的な雰囲気を醸し出している。
 しばらく綱吉を見つめていた白蛇だが、不意に動き出すと肢体をくねらせ庭の奧へ行ってしまった。
 その優雅な姿を何気なく見送っていると、後ろから雲雀母に声を掛けられる。
「どうかした?ツナちゃん」
「あ…蛇が…真っ白で綺麗な蛇が居たので…」
 蛇と聞いて、雲雀母は嫌がるどころか笑顔になった。
「まあ、白蛇様に会ったの?それは縁起が良いわね」
「縁起が良いんですか?」
「そうよ。白蛇様はこの家の守り神なの。きっと、お嫁にくるツナちゃんを見にきたのね」
「守り神…」
 古い家だ。そういう存在も在るのだろう。あの白蛇がまったく怖くなかったことも、それならば納得できる。
「他にも居るわよ〜。色々と…」
「他にもですか!?」
 改めて大きな家を見回す。なるほど、確かにまだまだ何か居そうだ。見えないその何かに、ちょっと不安になったのか顔を曇らせた綱吉に、雲雀母は大丈夫よと笑う。
「だってツナちゃんはとっても気に入られているもの」
「そうなんですか?」
「ええ、ツナちゃんが来ると家の中の雰囲気が良くなって、明るくなるのよ」
 自分が居ないときの雲雀家を知らないので比べる術はないが、そうだったらいいなと綱吉は思う。その思いを肯定するかのように、穏やかな風が綱吉の頬を優しく撫でていった。





 五月五日、こどもの日。世間一般ではそう呼ばれる今日だが、綱吉にとっては雲雀の誕生日であり、そして結婚式当日であった。
 この日は朝から忙しかった。何せ雲雀家での結婚式が終わった後、場所を移して披露宴だ。その際、白無垢からドレスに衣装替えをするので、ゆっくりとしている暇はない。
 控え室として用意された雲雀家の一室で、綱吉は大きな欠伸をしていた。
「こらこら。花嫁が欠伸なんてしない」
 その欠伸を見咎めて、黒川花が苦笑する。
「だって、今日五時起きだよ〜。しかも緊張であんまり眠れなかったし…」
 ぼーっとする頭で連れて来られ、着付けをされて化粧まで施された。頭に綿帽子を被ったその姿は、すっかり花嫁さんだ。
「ツナちゃん、すっごく綺麗だよ!」
「はい、素敵です〜」
「そうね。可愛いわ」
「うん、綺麗…」
 花の他に、笹川京子、三浦ハル、ビアンキ、クローム髑髏が居て、さっきから可愛い綺麗素敵を連発している。
「や、そ、そんなにすごくは…」
 褒められるのは嬉しいが、ここまで言われると恥ずかしくなってしまう。羞恥に頬を染める綱吉がまた可愛らしく、女性陣はキャッキャッとはしゃぎだす。
 彼女達の他に、沢田家の居候である子供達、獄寺隼人、山本武、笹川了平、そして六道骸がこの式に呼ばれていた。他にも呼びたい人は居たのだが、雲雀の親戚縁者合わせるとかなりの人数になってしまう。この家が広いとはいえ、流石に入りきらないだろう。なので、マフィア関係者は午後の披露宴に来てもらうことになっていた。
「クローム…」
 綱吉は声を潜めて、クロームを呼ぶ。
「なに?ボス」
「クロームは午後の披露宴に来るの?」
「うん。守護者は全員出席だって」
「そっか…」
 マフィアだらけになるだろう披露宴に、花や京子やハルは呼べない。母親である奈々ですら、理由をこじつけて参加は遠慮してもらった。
「そういえばツナちゃん。ツナちゃんのお母さんは?」
 京子は奈々にも挨拶しておこうと思っていたらしいが、彼女達がここに来たときには既に居なかった。
「ああ、母さんなら泣き出した父さんを落ち着かせるって言ってどこかに行った」
「…そうなんだ。お父さん、ツナちゃんの花嫁姿に感動しちゃったんだね」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ