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□雲雀家の結婚式
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 雲雀の家は、単純に家と呼ぶには大き過ぎた。昔の武家屋敷を思わせる佇まいは、個人宅とはとても思えない。綱吉も最初は随分と驚いた。今でも時々迷ってしまう。そのくらい広い。
 そんな広い家のこれまた広い一室で、綱吉は花嫁衣装とご対面していた。
 それは輝かんばかりの純白の打掛だった。純白といっても、ただの白い布ではない。銀の糸で、繊細な刺繍が全体に施されている。
「どう?どう?素敵でしょう!ツナちゃんが着たらとっても似合うと思うのよ!」
 呆然と打掛を見ていた綱吉に、はしゃいだ様子で話しかけたのは雲雀の母だった。雲雀によく似た容姿のキリッとした美しい女性なのだが、花嫁姿の綱吉を思い浮かべている今の表情は緩みきっている。
 一方、綱吉の顔はちょっと引きつり気味だ。今まで着せて貰った服の中でも、これはぶっちぎりでお高そうだった。そんな物をこれから着なくてはならないのだからかなり緊張する。
 それにしても、中学生で結婚なんて、雲雀一人が暴走しているだけだから周囲の大人も困っているのではないか。綱吉はそう思っていたのだが、どうも違うらしい。少なくとも、雲雀母は大変乗り気のようだった。
「あ、あの…おばさん。でも…」
「まあ、おばさんだなんて!」
 それでも、まだ早いのではと訴えようとした綱吉の言葉を、雲雀母が遮る。
「そんな他人行儀な呼び方しないで、ツナちゃんは家にお嫁さんに来るのよ」
 綱吉の手をそっと握り、雲雀母は息子そっくりの瞳をキラキラさせた。

「お母さん…って呼んで!」

 どうやら、雲雀母に結婚式を止めて貰うようお願いするのは無理らしい。しかし、このままでは本当に式を挙げることになってしまう。どうすれば良いのかと思い悩む綱吉の視界に、白いものが入る。足元を掠めるように動いたそれは、しかしすぐに消えてしまった。

 あれ?なんだろ…

 気にはなったが、花嫁衣装の試着が始まり、それどころではなくなる。終わる頃には、白いもののことなど、すっかり忘れてしまっていた。





 衣装合わせを終えた綱吉が家に帰ると、母の沢田奈々が興味津々な様子で、どうだったと訊いてきた。綱吉は知らなかったが、奈々は結婚式について既に承知していたらしい。
「母さん。娘がこんなに早く結婚しちゃったら寂しくないの?」
 今回のことを無邪気に喜ぶ奈々を、綱吉は不満に思っている。結婚なんて重大な事柄をこんな軽いノリで認めてしまって良いものなのか。
「あら、だって、式を挙げるだけですぐに雲雀さんのところに行ってしまうワケじゃないもの」
 そうなのだ。結婚式と言っても、その後の生活はあまり変わらない。そもそも、籍はまだ入れられないのだし、中学生の綱吉がそう簡単に親元を離れることもできない。だから奈々は、この結婚式を楽しいイベントくらいに思っているのだろう。
「もしかして雲雀君と結婚するのが嫌なの?」
「え?嫌じゃない…よ」
 そう、嫌ではない。それは、はっきりと言える。将来的にはそうなれたらいいなとは思っていた。ただ、ちょっと早すぎるだけだ。
「そうよね。だってあなた達、いつもラブラブだもの」
「なっ…そんなこと…」
 顔を赤くしたにした娘に、奈々は微笑む。母親から見ても、雲雀と綱吉はとても仲の良いカップルだ。多分、いずれはそういうことになるんじゃないかしらと思っていたところに、結婚式の話が来たので、奈々はあっさりと承諾したのだった。
「それにね。なんかお父さんの方の事情もあって、早く式を挙げたいみたいなのよ。聞いてない?」
「は?父さん…って…」
 綱吉はここで、ようやく滅多に帰ってこない父親の存在を思い出した。父、沢田家光は、娘を溺愛している。結婚どころか交際だけで大反対してもよさそうなものなのに、何も言ってこないのはおかしい。
 しかも、父方の事情。それは要するに、マフィアに関連することだろう。なにやらきな臭い話になってきた。これは問い詰めなければならない。
 綱吉は、事の全てを把握しているだろう人物のもとへと向かった。





「で、なにを企んでるんだよ。リボーン」
 綱吉は自室に戻ると、珈琲を飲みながら寛いでいる、姿だけは可愛い赤ん坊の家庭教師、リボーンに詰め寄った。マフィア関連ならば、このスパルタ家庭教師が関わっている可能性は大きい。
「別に、企んじゃいねーぞ。そもそも、結婚式やる羽目になったのは誤解されるようなことを言ったお前の落ち度だろーが」
「う…それは…」
 それはそうなのだが、そこに父方の事情とやらが絡んでくるとなると話は違う。
「でも、結婚は早い方がいいって、あの父さんが言うのはおかしいだろ?」
「ボンゴレ十代目の伴侶だからな。結婚相手は早く決まっていた方がトラブルも少ない」
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