◇◇

□眠ってる場合じゃないですよ。
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 並盛の街から山へと向かう国道を、一台の車と一台のバイクが疾走していた。
 国道と言っても、この先は曲がりくねった山道で、もともと交通量は少ない道だ。今も他の車は見当たらない。そこを制限速度を超えた猛スピードで、二台は走行していた。どうやら、前を走る車をバイクが追いかけているらしい。
 車の方は黒塗りの高級外車。中は遮光フィルターが貼られていてよく見えないが、乗っているのは一人ではないようだ。
 一方、バイクを走らせていたのは学ランを着た少年、雲雀恭弥だった。
 彼は並盛中の風紀委員長だが、普段は交通違反まで取り締まったりはしない。雲雀が車を追っているのは、見てしまったからだ。
 それは十数分前のこと。彼はバイクで並盛の街を見回っていた。というより、咬み殺す相手を探していた。半月ほど前、十年後の未来に飛ばされ帰ってきてからというもの、どうも咬み殺しがいのある相手と出会えていない。一人、ずっと戦いたい相手が近場にいるのだが、いつでものらりくらりとかわされてしまう。
 雲雀は、その強さと相反する赤ん坊姿を思い浮かべる。すると同時に、ある少女を思い出して、首を傾げた。
 赤ん坊の生徒だという沢田綱吉。男みたいな名前の彼女の顔が、最近妙に頭の中をちらつく。確かに強かったり弱かったりする小動物のような少女は気になる存在だが、自分の中での位置付けがどうも分からない。
 そんな時、その少女のフワフワな琥珀色の髪が視界を掠めた。今交差した人通りの少なく、車一台分ほどの幅しかない道でだ。雲雀は急ブレーキを掛けると、そのままの勢いでバイクを旋回させ引き返す。ただ見かけただけならば、こんなにも急がない。黒塗りの怪しい車とダークスーツの男達もまた視界の隅に入ったからだ。
 その道まで戻ると、それは確かに綱吉で、しかも車に乗せられているところだった。どうも意識がないらしい。
「…チッ」
 思わず舌打ちが出る。 アクセルをふかし、猛スピードで車へと向かうが、実はそこまでかなりの距離がある。これでよく綱吉を見つけられたものだが、乗せられることを阻止するまでは無理だった。しかも男達に気付かれたらしく、車は急発進したままのスピードで街中を走り始める。そして郊外へと出てからは、更にスピードを速めて雲雀の追走を振り払おうとした。
 しかし雲雀も諦める気はない。彼は今、酷く腹を立てていた。自分の街で人攫いなどという不埒なことをした輩にも、あっさり攫われてしまった迂闊な綱吉にも、こんなときに限っていない彼女の友人達にも、それを止められなかった自分にも…それに何より、ここで車を見失い、綱吉があのまま攫われてしまったらどうなるのか、想像しただけで腸が煮えくり返る。と同時に、胸の辺りがやけに苦しいような気がするのは何故だろうか。雲雀はその感情の名前を知らない。
 やがて道は山道に入り、カーブが多くなってきた。

 そろそろかな…

 続く急カーブに車はスピードを落とす。
「ロール」
 雲雀は未来から連れてきたハリネズミ型兵器を呼び出した。未来に居た時はボックスに炎を注入しなければならなかったが、今は指輪になっているため、呼ぶだけで現れる。
 呼び出したロールを肩に乗せ、雲雀はスピードを落とした車へと一気に迫った。すると、車の窓が少し開けられ、そこから光る物が向けられる。銃口だ。相手は手段を選ばなくなってきた。しかしこの程度は想定内。そもそも、綱吉を攫った時点で相手はマフィア関係者であり、物騒なことになるのは想像できる。
 躊躇なく放たれた弾丸を難なく避けると、雲雀は一気に間合いを詰めた。トンファーを取り出し、銃を捉え破壊する。
「ロール、増殖」
「ピィ!」
 甲高く鳴くと、ロールは丸くなって宙に浮く。そして、一気に何十体にも増えていった。増殖したロールは車を囲い込む。運転していた者もいきなり現れた謎の球体に驚いたのだろう。急ブレーキを踏み、車はカーブ半ばで停止する。雲雀は後部の窓ガラスを叩き割ると、撃ってきた相手を一撃で昏倒させた。敵はあと二人。一人は後部座席で意識のない綱吉の向こう側に、もう一人は運転手だ。破壊した窓から侵入し、先ずは後部座席の男から倒す。銃を向けてきたが、撃つ隙は与えなかった。運転手の方はフロントガラスを突き破ったロールのトゲで身動きできないでいたので、雲雀は綱吉の状態の確認をすることにした。この騒ぎでも、まったく起きる気配がないことが気になる。
「起きなよ、小動物」
 声を掛けるが、やはりピクリともしない。
「…沢田綱吉」
 名前で呼んでも同じだった。
 トンファーをトゲの間でもがいている運転手の喉元に当てる。短い悲鳴がその喉から洩れた。
「ねえ、この子に何をしたの?」
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