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□看病します!
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 イタリア某所。とあるホテルを貸し切ったマフィアのパーティーに、綱吉はボンゴレ十代目として出席していた。
 こういった華やかな場は苦手な彼女だが、ボスという立場上、壁の花でいることも許されない。
 ボスらしく毅然とした態度で、美しく知的に振る舞え。相手が同盟マフィアでも油断はし過ぎるな。
 厳しい家庭教師の教えに従い、イタリア随一のマフィアのボスらしくしてみるものの、どんなに成長しても根本的なところで変わらない綱吉にとって、立派なボスは荷が重い。デスクワークの何倍も気疲れしてしまう。
 しかもイタリア男というものは、女性は口説かなければ失礼と思っているらしく、過大に賛美され、過剰なスキンシップをしてくるので、それをかわすのにも神経を使った。
 だからだろうか。綱吉は珍しく、その不審者に気付かなかった。そして偶々気付いたのは彼だけだった。

「綱吉さん!!」

 その声に振り返ると、視界に誰かが飛び込んできた。その特徴的な髪型から、すぐに六道骸だと分かる。しかし、どうしたのかと訪ねる隙もなく、光と爆発音がパーティー会場に吹き荒れていった。





「まったく、爆発物があんなに簡単に持ち込まれるなんて、あの会場の警備はどうなっているんでしょうね!」
 美しい森の湖畔で、骸は忌々しげに眉をしかめる。あのパーティー会場での爆発は、手榴弾を投げ込まれた結果だった。主催者だったファミリーと対立していた組織の仕業だが、他のファミリーを招くのならば、警備はいつも以上に厳重でなければならないはずだ。
「でも、骸様もボスも生きていて良かった」
 骸は一人ではなかった。隣には、クローム髑髏が静かに佇んでいる。
「当たり前です。僕が居て綱吉さんに傷一つ付けさせるわけがないですよ」
「はい…でも、ごめんなさい。私はすぐにお傍へと行くことができません」
 悲しげに目を伏せるクロームを優しく撫でながら、骸は穏やかに微笑む。
「僕なら大丈夫です。だから、クロームは自分の仕事をしっかりとこなしなさい。犬と千種にもそう伝えてください」
「はい」
 クロームはようやく笑顔を見せる。
「骸様。ボスがとても心配しています。そろそろ起きてください」
「ええ、そうですね」
 湖畔が揺らいだ。クロームもゆらゆらと揺れ、陽炎のように輪郭があやふやになってゆく。
 ここは現実ではない。骸とクロームを繋ぐ夢の中だ。
 消えかけているクロームが手を振るのが分かった。骸も軽く手を上げて、それに応える。
「むく…さ…ボ………から…」
 クロームが最後に何か言ったが、上手く聞き取れない。しかし聞き返す間もなく、骸の意識は目覚めへと急浮上していった。





「骸!?気付いたのか!」
 目を覚ますと、綱吉の顔が先ず見えた。クロームの言葉通り、余程心配したのだろう。涙が今にも零れそうなくらいに溜まっている。
「だから言ったじゃない。コレがそう簡単に死ぬワケがないって」
 綱吉の隣に、ムスリとした表情の男が現れた。骸もよく知っている彼の名は雲雀恭弥。綱吉とは中学生からのお付き合いを経て、一年前に結婚している。
「貴方がここに居るということは…」
 骸は辺りを見回す。といっても、体のあちこちが痛くて上手く動かせない。それでも、ここがパーティー会場ではなく、病室であることが分かった。恐らくは、ボンゴレ本部の屋敷内にある医療室だろう。
 骸は綱吉を守ったが、不覚にも自身は深手を負ってしまっていた。どうやら丸一日意識がなかったらしい。綱吉が心配するはずである。
「でもまさか、雲雀君まで来てくれるとは…そんなに僕が心配でしたか?」
 からかうように言うと、雲雀は仏頂面を益々しかめた。
「君が心配で来たんじゃないよ。元々こっちに来る予定だったんだ。久しぶりに綱吉とゆっくりするつもりだったのに、到着してみれば君は大怪我してるし、綱吉は自分のせいだって大泣きするしで大変だったんだから」
「はいはい、それはすみませんね」
 雲雀と綱吉は結婚してからも忙しすぎて、なかなか二人の時間を持てていなかった。そんな中、ようやくまとまった休暇が取れることになり来てみれば、この惨事だ。雲雀の機嫌が悪いのも仕方ない。
「まったく、怪我なんてして、綱吉を泣かせないでよね。でも…」
 雲雀はフイッとそっぽを向く。
「礼は言っておく」
 大事な人を助けて貰った感謝はあるようだ。それに、雲雀は雲雀なりに骸のことを心配していたらしい。どこか照れくさそうな横顔に、骸は笑い出すのを堪えた。

 まったく、相変わらずのツンデレさんですね。
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