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□素敵なトナカイさん
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「じゃあ、その用事が終わるの待つから…ね?」
そう言いながら、男の一人が綱吉の肩に手を掛けようとする。が、その手はパシリと弾かれた。
「あ…」
「なんだ?コイツ…」
トナカイが男の手を振り払い、綱吉との間に割って入る。
「トナカイさん!」
「なにお前?邪魔するな!」
綱吉にとっては頼もしい助け舟だが、男達にとっては邪魔者だ。漂う険悪な雰囲気に、トナカイが構える。素手なのに、まるで両手に何かを持っているような構え。それを綱吉は見逃さなかった。
自分を守ろうとするその背中。見慣れた構え。もしかしてと思っていたことは、やっぱりという確信に変わる。
一方の男達は一時的にカッときたものの、事を荒立ててまでナンパをするつもりはなかったらしい。下手な捨てゼリフを吐きながらもその場を去って行く。綱吉はとりあえず大事にならないことに安堵した。
「トナカイさん。ホントにありが…あっ!!」
今度こそお礼を言おうとした綱吉だが、トナカイは遥か先まで走って行ってしまっていた。
「ま、待って!ひ…」
出掛かったその名前。しかし呼ぶのを止めて、綱吉はトナカイが行ってしまった方を見つめて苦笑した。
バレたかな?
着ぐるみという動きにくい姿で走りながら、トナカイはしまったと思う。何せ彼女ときたら普段かなりトロいくせに、その血に流れる超直感とやらで人の行動に関しては驚くほど感が働く。気付かれてしまっては、なんの為にこんな着ぐるみまで着たのか分からない。
そもそも、綱吉があんな格好でチラシ配りをしているという情報をトナカイが知ったのは、この街に住む部下からだった。こんな寒空の下、あんな格好では冷えてしまう。しかも彼女は気付いていないようだったが、道行く男共の視線は明らかに短いスカートとそこから伸びる白くて細い素足に向いている。
止めさせよう。トナカイがそう思ったとき、綱吉の家庭教師が現れて邪魔をするなと言った。そこでトナカイは、綱吉がアルバイトをする理由を聞くことになる。
聞いてしまっては、健気な彼女の行動を止めさせることなどできない。しかしやはり不安だ。
そんなトナカイに、家庭教師はの着ぐるみを渡す。そして悪魔の如く、楽しげに囁いた。
コレを着ればバレないと…
こうして、しばしの逡巡の後、トナカイはトナカイになった。
クリスマスといえば、当日よりも前日のイブの方が盛り上がるものだ。今年も鮮やかなイルミネーションと、そこに行き交う人々によって街は賑わいをみせている。
しかし綱吉は、そんな賑わいとは離れた学校の応接室に居た。クリスマスイブは毎年ここで、雲雀と二人きりで過ごすのだ。
この日も綱吉が作ったケーキと雲雀が淹れたお茶、そしてお互いが用意したプレゼントでクリスマスを祝う。綱吉がバイト代を注ぎ込み買ったプレゼントを、雲雀はとても喜んでくれた。それだけで十分、ではあるのだが…
「雲雀さん。ちょっと…」
「なに?綱吉どうしたの」
綱吉は雲雀の体をグイグイと押して後ろを向かせる。そしてその後ろ姿を見上げて、顔を緩ませた。
それはいつもの背中だ。いつも綱吉を守ってくれる、昨日も見た背中。
心の中でお礼を言う。あんな格好をしてまで助けてくれたこと、そして、今も知らないフリをしてくれていることを…
「雲雀さん。大好き」
ありがとうの代わりにそう言って、綱吉は自分だけの素敵なトナカイさんに抱きついた。
end