◇◇

□福引きに当たる方法
1ページ/3ページ




 年末大感謝祭。
 そう書かれたのぼりが、あちらこちらに掲げられている並盛商店街。年内もあと数日を残すのみとなり、街は年末特有の慌ただしさと賑わいを見せていた。
 そんな人混みを、買い物袋片手に琥珀色の髪を機嫌良く揺らしながら歩く女性がいた。女性というよりは、まだ少女のような容姿なのだが、彼女は二十歳過ぎの立派な成人女性だ。

「あら?ツナちゃん」

 ツナちゃんと呼ばれて、彼女は振り返る。綱吉という女性らしくない名前が本名なのだが、昔からツナという愛称で呼ばれることが多い。
「あ、ああ!おばさん!お久しぶりです」
 綱吉を呼び止めたのは、彼女の実家の近所に住む主婦だった。高校を卒業して以来、五、六年ぶりの再会だ。
「本当に久しぶりねぇ。まあ、暫く見ない間に……変わらない…わね」
 本当ならば、社交辞令でも綺麗になって…なんて続くのだろうが、童顔な母親の血を色濃く受け継いでいるためか、綱吉は昔と殆ど変わらない。
「は、ははは…」
 常に十代と見間違えられるので慣れてはいるが、まだ若く見られて嬉しい歳ではない。しかも、綱吉の立場上それはあまり好ましくない特徴と言えた。
「ツナちゃん。こっちには里帰り?それともずっと居られるの?」
「あ、いえ…お正月過ぎたらまた戻らないと…」
「そう、寂しいわね〜…そうだ!」
 何かを閃き、おばさんは瞳を輝かせる。綱吉は親切だが、少しお節介なところのあるこのご近所さんの生き甲斐を思い出し、嫌な予感がした。
「ツナちゃん。結婚は?まだなら、おばさん、良い人を紹介するわよ!」

 ああ、やっぱり。

 とにかく、人の縁談を纏めることが好きな人なのだ。しかし綱吉は、それをきっぱりと断れる理由を持っていた。
「あの、俺はもう、結婚してるんで」
 まったくそうは見えないが、綱吉は歴とした人妻だ。
「あらまあそう!…もしかして、相手はあの雲雀家の坊ちゃん?」
「…はい」
 雲雀家は、この並盛では知る人ぞ知る名家だ。綱吉の旦那様は、もう坊ちゃんという年齢ではないのだが、そこの一人息子だった。
「そうなの。学生時代に二人で仲良く帰る姿はよく見かけたけど…そう、結婚したの」
 中学生の頃から付き合いだした相手と、結婚まで行き着けるカップルはあまりいないだろう。おばさんは、感慨深げに何度も頷いた。
 その後は世間話に花が咲く。大半はおばさんの嫁と夫に対する愚痴だったが、時折綱吉の仕事や今、住んでいる場所について聞かれる。だが、それを詳しく話すことはできない。

 知られてはいけないのだ。自分が、イタリアでマフィアのボスをやっていることなど…

 ずっと嫌だと拒否してきたが、紆余曲折の末、二年前に結局継がされてしまったイタリア最大のマフィアのボスという地位。しかし、その重圧に耐え、周囲の助けも借り、なんとか今まで勤めてきた。今日はそんな多忙な日々の中、厳しい家庭教師から、お正月、三が日までという約束でもぎ取った貴重な休暇だ。

「そうそう、それでね。うちのダンナったら…」
 久しぶりの並盛。久しぶりの日常。何よりも平穏を望む綱吉にとって、こうしておばさんの愚痴を聞かされるのも苦ではない。
「まったく困っちゃうわ!でね…」
 おばさんの話しがさらに白熱し始めたその時。

「綱吉」

 呼ぶ声に振り返ると、スラリとした細身の青年がいた。綱吉とは対照的な漆黒の髪と瞳で、端正が顔立ちをしている。

「恭弥さん!」

 青年は雲雀恭弥。綱吉の旦那様だ。
「どうしたんですか?」
「君の実家に着いたら買い物に出掛けたって聞いてね。迎えにきた」
 雲雀と綱吉はイタリアから一緒に帰ってきた後、一度雲雀の実家に足を運んだ。それから二人で綱吉の実家に行く予定だったのだが、雲雀だけ所要で一日残ることになったのだ。
「思ったより早かったですね」
 笑顔で駆け寄ると、雲雀の鋭い瞳が和らぐ。
「早く終わらせたんだよ。まったくあの人達ときたら君が帰ってしまったから機嫌が悪くてね」
「え?ごめんなさい。ドタバタしてたから長居するとお邪魔かと思って…」
「綱吉のせいじゃないよ。仕事を終わらせられなかった方が悪い」
 綱吉は雲雀の家族に、とても気に入られている。昨日も、雲雀というよりは綱吉が帰ってくると聞き、時間を作ろうとした結果、慌ただしかったらしい。
「あ、それなら今からまたご挨拶に…」
「必要ないよ。甘やかすとすぐにつけあがるしね」
 そう言って眉を寄せる雲雀に、綱吉は苦笑した。家族との仲が悪いわけではない。ただ、似た者同士なためか、時折綱吉の取り合いになったりするのだ。
「とにかく、会いたければ向こうから来るよ。それより買い物は終わったの?」
「はい…あ、でも俺福引きに行きたいです」
「福引き?」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ