◇◇
□飴玉ひとつ
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「黒川、ありがとう、ありがとう!!」
「いいわよ…お礼なんて…」
涙ぐみながら何度も礼を言う綱吉に、花は少し照れながら飴玉を渡す。
「でもソレ、早く食べた方が良いんじゃないの?」
「え?でも…」
「あのガキはアンタのとこのでしょ?また同じことするわよ」
確かにやりかねない。というより、綱吉の目を盗んでやるだろう。それに、いくら飴玉でも一生取っておくことなんてできないかもしれない。
綱吉は、しばらく剥き出しになってしまった淡い桃色をした半透明の球体を見つめた。そして意を決したようにギュッと目を瞑り、それを口の中へと放り込んだ。
飴玉はイチゴ味だった。甘酸っぱさがゆっくりと、口の中で溶け出す。綱吉は自分の想いも、いつかこうして溶けてなくなるのかもしれないと、悲しくなってしまった。
涙がじわりと込み上げそうになった時、京子がランボの捨てた飴玉の包み紙を拾い、綱吉に見せる。
「やっぱり飴玉は食べて正解だったんだよ。ツナちゃん」
紙の裏。飴玉が包んである状態では見えない場所に、文字が書かれていた。
綱吉はそれをゆっくりと読む。
ぽかんと開いた口から飴玉が零れ落ちそうになった。それをとっさに手で押さえて、綱吉はもう一度包み紙を良く見る。綺麗なその字は、確かに雲雀の書いたものらしかった。
京子はにこやかに、包み紙を綱吉の手に握らせる。
「京子ちゃん。俺…」
「うん。いってらっしゃい」
「ありがとう!!」
京子と花に手を振りながら、綱吉は教室を飛び出した。その後ろ姿を、京子は優しく、花は少し呆れるように笑って見送った。
教室を飛び出した綱吉は、応接室に来ていた。
ソファーに座って書類を見ていた雲雀は、早々にやってきた綱吉に少し驚く。
「へぇ…君のことだからずっと気づかないと思ってたよ」
ニヤリと笑う雲雀に、綱吉は飴玉の包み紙を見せた。
「あの…あの…これに書いてあることって…」
本当なのか、雲雀の口で言って欲しかった。しかし雲雀はすうっと目を細めると、一枚のカードを取り出した。
「君こそ、これに書いてあることは本当なの?」
それは、綱吉がチョコレートと一緒に渡したカードだ。
「え、それはもちろん…本当…です!」
顔が熱くなった。また逃げ出したい気持ちに駆られたが、包み紙の言葉が聞きたくて、踏みとどまる。
「本当に俺は…」
心臓がバクバクする。何故か涙が出てきた。
「雲雀さんが好きです!」
叫ぶような告白だったが、雲雀は満足げに笑う。立ち上がり綱吉の手を引くと、腕の中へと閉じ込める。
「やっと言ったね」
驚きに固まった綱吉の手から、握っていた包み紙が離れた。
「僕も好きだよ」
それは、ひらひらと舞うように落ちてゆく包み紙に書かれたものと同じ言葉。
綱吉は固まった体をゆるゆると弛めた。口の中に少しだけ残った飴玉の、甘酸っぱさのような気持ちはとても幸せで、自分を抱きしめる体に身を任せ、そっと目を閉じた。
end
《ちょこっとオマケ》
後日のこと。
「でも雲雀さん。俺がずっと包み紙の言葉に気づかなかったらどうしたんですか?」
「そんなの、卒業前に押し倒すつもりだったから問題ないよ」
「へ?おしたお…」
「うん、こうやって」
ポスンと軽い音と共に綱吉の視界は反転した。
終わる。