◇◇

□生徒会長の苦難と恋
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 パイナップルと呼ばれた骸は、ピクリと頬を引きつらせる。
「この髪型の良さが分からないなんて相変わらず粗野な人ですね。で、なんの用ですか?」
「あの子に何をしたの」
 雲雀からゆらりと殺気が立ち上る。ただならぬ気配に慌てて、他の生徒達が逃げ出した。しかし骸は、それをいつもの笑顔で受け流す。
「なんのことですか?」
「とぼけるな!」
 雲雀の殺気が膨れ上がった。
「あの子が来なくなったのは君が何か言ったせいだ!」
「さあ、知りませんね。それに、彼女は今、行動を制限されているわけではないんです。会いたければ会いに行くはずですよ」
 クフフと特徴的な笑い声が教室内に響く。

「単に嫌われたのではないですか?貴方」

 その瞬間、凄まじい破壊音がした。何事かと逃げた生徒が教室を覗いて見ると、骸の前の机が粉々に粉砕されている。

「分かった。もういい…」

 最後にそれだけ言うと、雲雀は学ランを翻し、教室を去っていった。
 骸が粉砕された机を見ながら、クハッと楽しげに笑った。





「じゃあツナちゃんの様子がおかしいのはお兄さんのせいなのね?」
「うん…この前お昼に連れて行かれたときに何か言われたんだと思う」
「そうか、やっぱり…あれからツナちゃん。お昼に彼氏さんのとこ、行かなくなっちゃったもの」
 京子はこのところ、様子がおかしい綱吉を心配していた。どうも夜、隠れて泣いているらしいのだが、京子の前では元気そうに振る舞うのだ。それとなく訊いてみても、綱吉は何も話してはくれない。手掛かりといえば、数日前の昼休みに骸がやってきて、半ば強引に綱吉を連れて行ってしまった辺りから彼女の異変が始まったことだ。骸が関わっている可能性は高い。そう考えた京子だが、骸とはほとんど面識がないため、先ず妹の凪に話しを聞きに来たのだ。
「ごめんなさい。私がもっと早くなんとかしていれば…」
 綱吉の想い人の存在を知れば、あの兄が邪魔をしてくることなど分かりきっていた。それなのに阻止できなかったことを、凪は後悔する。
「凪ちゃんのせいじゃないよ。でもなんで骸さんは邪魔をしようとするのかな?」
「それは…」
 生徒会の仕事に支障をきたしているとは思えない。
 骸の行動の理由が京子には分からなかったが、凪は何か知っているようだった。しかし話すのを躊躇う。だが、綱吉のことを心配し、京子に話しておくことは必要かもしれないと、理由を教えてくれる。

「お兄ちゃんはね。ボスのことが好きなの」

 その暴露に、京子は驚きながらも納得した。
「わー…そうなんだ。あ、もしかして、ツナちゃんを生徒会長にしたのって…」
「うん、傍に置いておきたかったんだと思う」
「……骸さんって意外と…」
 意外との後が続かない。
「あ、あのね!最初は私のためだったの!私がこんなだからお兄ちゃん、仲良くなれる人を探してくれて、それで…」
 必死にフォローする凪。今回のことはともかく、やはりお兄ちゃんが大好きなのだろう。その気持ちは、同じく兄がいる京子にもよく分かった。
「優しいお兄さんなんだね」
「うん。だからお兄ちゃんの恋も応援してあげたかったんだけど…」
 今回のことは別だ。大事な兄といえども、大好きな綱吉を悲しませることは許せなかった。
 とはいえ、綱吉のために何ができるのか、二人は悩んだ。
「お兄ちゃんから事情を訊くのは難しいと思う。絶対にはぐらかされる」
「やっぱりツナちゃんに直接訊かなきゃダメかなぁ?せめて彼氏さんが誰かわかればね」
 判ればもう少し何とかなるかもと考えたが京子に、意外なところから手掛かりがもたらされた。

「おう、京子!」
「お兄ちゃん?」

 京子に声を掛けたのは兄の笹川了平だった。極限が口癖なボクシング部の部長は、ある意味、雲雀や骸と同じくらいこの学園では有名だ。
「京子お前、生徒会長の沢田と仲が良かったよな」
「うん、良いよ。でも、どうして?」
「うむ、さっき雲雀がその沢田のことで骸と揉めていたのでな。少し気になったのだ」
「え?雲雀さんが…」
 京子と凪は顔を見合わせた。
「お兄ちゃん!それ、詳しく教えて!」
「教えて下さい!」
 妹と大人しそうな友達の気迫に、珍しく圧され気味になりながら、自分の隣のクラスで起こった、雲雀恭弥による六道骸強襲机粉砕事件の詳細を話した。





 静かな月夜。綱吉は寮の自室でベッドに座り、ぼんやりしていた。迷いに迷って、結局今日も雲雀に会いには行けなかった。じわりと涙が滲む。それをグイッと拭った。もうすぐ京子が、お風呂から戻って来るはずだ。心配をかけたくはない。
「あれ?ツナちゃんもう出てたんだ」
 タオルで髪を拭きながら、京子がドアを開けた。綱吉の向かいにある自分のベッドに、綱吉と同じように座る。
「あのね、今日雲雀さんが骸さんと揉めたらしいよ」
「…え?」
 あまりに唐突な話題に、綱吉は戸惑う。
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