◇◇

□生徒会長の苦難と恋
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 慌てふためく綱吉に、京子は首を傾げた。
「違うの?でもツナちゃん。いつもすごく嬉しそうに行くし、友達だったら凪ちゃんみたいにここに連れてくるでしょ?だから…」
 彼氏だと思っていたらしい。
「そんな嬉しそうにしてた?」
「うん、とっても!」
 断言する京子。それだけでも少し考えれば自覚するには十分だったが、凪はもっと決定的なことを訊いてきた。

「ボスはその人のこと、好きなの?」

 すぐに答えはなかった。綱吉が一度、思考を停止したからだ。

「す、すすすすすすー!?」

 茹でダコみたいに真っ赤になって、すを繰り返す綱吉に、京子と凪は彼女が無自覚だったことを理解した。





 自覚した綱吉がふらふらしながらも屋上へ向かった後、京子と凪はその場で談笑していた。話題は勿論、綱吉のことだ。
「ツナちゃん、可愛かったね。真っ赤になって」
「うん、でも…少し残念」
「え?ごめんね。今なんて…」
 最後の方がはっきりと聞こえず、京子は聞き返すが、凪はなんでもないと首を振る。元々思わず出てしまった独り言だ。
「ボスが幸せだったらいいの」
 それには京子も賛成だ。
「そうだね。ツナちゃんは笑ってるのが一番可愛いもの」
「うん」
 頷きながら、凪は綱吉の笑顔のために決意する。

 相手が誰かは分からないけど、このことは絶対、お兄ちゃんに知られないようにしないと…

 しかし、この決意は少しばかり遅過ぎるものとなってしまった。





 翌日。雲雀はいつものように綱吉を待っていた。しかし、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っても、彼女が屋上に来ることはなかった。





「骸さん。俺、行かなくちゃならないところがあるんです」
 昼休み。綱吉は骸によって、生徒会室に閉じ込められていた。
「駄目です。仕事が溜まっているので…はい、次はこれです」
「そんな、今までこんな量やらなかったのに…」
「今まで貴女を甘やかしすぎました。これからはもう少し仕事を覚えてもらいます」
「だからっていきなりこんな…」
 訳が分からない。骸は昼食を食べ終わらないうちにやって来て、生徒会室に綱吉を連れてきた。そして大量の書類を押し付けて、仕事をしろと言う。
「あの、少しだけ…本当に少しだけで構いませんから外に出して下さい」
 懇願するが、骸は冷たい眼差しで綱吉を見る。いつもの嘘臭い笑顔すらない。

「雲雀恭弥ですか?」

 冷たい声が言い当てる。
「な、なんでそれを…」
 顔色が変わった綱吉に、骸はやれやれと肩を竦めた。
「僕の情報網を舐めないで下さい。貴女は雲雀恭弥に利用されているだけなんですよ」
「り…よう?」
「そうです。彼は貴女から生徒会の情報を引き出そうとしているだけです」
 それを聞いた途端、綱吉の表情が険しいものに変わる。立ち上がり、骸を強く睨み付けた。
「雲雀さんはそんなことをする人じゃない!」
 怒りにまかせて叫ぶ。綱吉が本気で誰かに怒るのは珍しい。しかし、骸はまったく動じていなかった。
「本当に?彼に何か言われませんでしたか?例えば、僕の行動を探るようなことは?」
「そんなこと…」
 ないと言いかけて、何かあったら言いなと言われたことを思い出す。
「でも、あれは親切で言ってくれたことで」
「おや、ならば聞きますが、雲雀恭弥が貴女に親切する理由はなんですか?」
「それは…」
「おかしいとは思いませんでしたか?あの歩く傍若無人がですよ。なんの理由もなく人に親切なんて有り得ません。まして…」
 反論できない綱吉に、骸は畳み掛ける。
「貴女のように弱い草食動物みたいな存在を彼は嫌っています。何か裏がない限り、構う訳がない」
 それは、綱吉自身が一番疑問に思っていたことだ。そこを突かれては二の句が継げない。力が抜けて、ストンと座った。
「大丈夫ですよ。雲雀恭弥が何をしてきても貴女は私が守りますから。ね、綱吉さん」
 骸がいつもより少し優しさを滲ませて笑う。
 綱吉はどうしてよいのか分からずに、呆然としていた。彼女は骸の言葉を全て信じてはいない。ただ、自信がなかった。雲雀にとって、自分が何なのかが分からない。その不安が綱吉の心を萎縮させ、雲雀に会うこと自体を留まらせてしまう。
 次の日もまた次の日も、昼休み、自由に行動できるようになっても、綱吉は屋上へと行けなくなっていた。





 雲雀の機嫌は最悪だった。綱吉が屋上へ来なくなってから、彼のイライラは増すばかり。最近では副委員長の草壁ですら、近付くことすらできなくなっている。
 彼は今、ある場所へと向かっていた。綱吉が屋上へ来なくなった原因だろう人物ところだ。
 三年の教室の一つ。まだ授業中にも関わらず、雲雀は躊躇なくドアを開け、真っ直ぐに目的の人物の前へと行く。教師も相手が雲雀では止めることなどできない。
「やあ、パイナップル」
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