◇◇

□生徒会長の苦難と恋
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「あ、あの…それは、どういった意味合いで、ですか?」
「どういった意味合いもなにもそのままだよ。ああ、その女の子はね、ふわふわな琥珀色の髪と大きな瞳のちょっとトロそうな草食動物な一年生で、緊張すると変な顔になるんだけど…」
 どうやら女の子全般ではなく、個人限定らしい。草壁は益々訳が分からなくなった。

「でも、笑った顔はとても可愛いんだ」

 しかも、極めつけにそんなことを言う。

 どうしてしまったんですか恭さん!まさかそれって…

 内心は混乱していたが、雲雀の突飛な言動には慣れている草壁だ。表面上は平静を保つ。
「え〜それでしたらね…」
 そして、なんとか質問の答えを絞り出した。





 翌日、綱吉が約束通り屋上へ行くと、雲雀が既に待っていた。
「ごめんなさい!待ちました?」
「いや、僕も今来たところだから」
 本人達に自覚はないようだが、デートの待ち合わせみたいな会話だ。
「はい、コレ」
 雲雀は先ず、手に持っていた箱を差し出した。
「え?あれコレ、もしかしてケーキですか?」
 箱には並盛で美味しいと評判なケーキ屋さんのロゴが入っていた。
「でもなんで?」
「女の子は好きだって聞いたから、これなら笑うかと思ってね。甘い物は嫌い?」
「いえ、大好きです!けど…」
 わざわざケーキを用意してまで、自分の笑顔を見たい理由がよく分からない。
 可愛いとは言われた。ただ、それがどういった意図のあるものなのかも分からない。しかしその時のことを思い出すと、頬が火照った。
「けど?」
「あ、いえ、なんでもないです!ありがとうございます!」
 きっと言われ慣れていないせいだと自分に言い聞かせ、ドキドキする鼓動を鎮める。
「ケーキ、食べましょう!二つあるみたいだから雲雀さんも」
 ふにゃりと笑うと雲雀も笑う。
「やっと笑ったね」
 それは、前に見た肉食獣のようなそれではなく、もっと優しげな笑みだった。
 一度は鎮まった筈の綱吉の鼓動が、再び早く大きく鳴り始めていた。





 それからも、雲雀と綱吉は毎日昼休みになると屋上で会うようになった。約束した訳ではないのだが、お互いに自然とここへ足を向ける。

「じゃあ、前の前の生徒会長と雲雀さんを対立させるようにしたのって骸さんなんですか!?」
「そう、で自分が後釜になるように画策した。でも当時の会長は無能なくせに権力を笠に着るような小者だったから、あれが何もしなくても潰していたけどね」
「う、すみません。俺も無能です」
 渡された書類にサインすることと、原稿を棒読みすることしかできない自分に綱吉はしゅんと肩を落とす。
「君はあんなのとは違うよ。骸ともね…それより、あのパインは目的のためなら手段を選ばないからね。どういうつもりで君を会長にしたのかは分からないけど、気をつけた方がいい」
「え?」
 最近は少し慣れてきた会長職だが、そう言われると不安になってくる。それが顔にでたのだろう。ぷにりと頬を摘まれた。
「また変な顔になってるよ」
 前のように痛いほど引っ張られない。しかし、雲雀に触れられると心臓が爆発しそうになって困る。
「ひ、ひひ、雲雀さんが悪いんですよ!不安になること言うから」
「うん、だから何かあったら僕に言いな。パインくらいすぐに咬み殺してあげるよ」
 咬み殺すのはともかく、心配してくれているらしいことが綱吉には嬉しかった。
「…はい」
 素直に頷くと、雲雀はあの優しげな笑みで頭を撫でてくる。
 この時、綱吉は激しく鳴る心臓が雲雀に聞こえてしまいそうで気が気でなかったのだが、その心配の必要はなかった。何故なら、激しく鳴っていたのは綱吉の心臓だけではなかったからだ。
 二人がお互いの気持ちに気付くまで、あともう少しだった。





「じゃあごめん!俺、行くね」
 昼食を食べ終わり、綱吉は雲雀のいる屋上へと向かうために席を立つ。
 一緒にいたのは京子と凪だ。綱吉を通して出会った二人は少しずつ仲良くなり、今では一緒にお昼を食べることが日課になっていた。
 しかし綱吉はすぐに行ってしまう。凪はそれが少し寂しいようだ。
「もう行っちゃうの?」
「ごめん。凪…」
 申し訳ないとは思うが、雲雀と会えるのは今のところ昼休だけだ。これは譲れない。
「凪ちゃん…」
 京子が凪を諭す。しかしそれは綱吉にとって爆弾発言だった。

「ツナちゃんは彼氏さんに会いに行くから我慢してあげて」

 綱吉は誰にも雲雀とのことは話していない。流石に、敵対している風紀のトップと会っているなんてマズかろうと思ってのことだ。しかも、彼氏なんて、いったいどこから出てきたのだろうか。
「な、なに言ってんの!?彼氏だなんてそんな…」
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