◇◇

□生徒会長の苦難と恋
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「あの、もしかして…骸さん?」
「うん、そう」
 言われてみれば、あの奇妙な髪型はパイナップルにそっくりだ。
「…そか、何かに似てると思ってたけど…ぷっふ…ははは」
 今までの緊張も忘れて、思わず笑ってしまった。
「ど、どうしよう。今度見たら笑っちゃいそう。凪も同じ髪型なのに…」
 骸はともかく、凪を笑って傷付けてしまうのはよくない。そう思いながらも、なかなか笑いは止まらなかった。

「へぇ、笑うんだね」

 ふひっと息を呑み、笑いが止まる。
「す、すみません!すみません!笑ってごめんなさい!!」
 笑ってはいけなかったのかと怯える綱吉だが、雲雀に怒った様子はない。
「なんで謝るの?ただ、君はいつも変な顔しかしないから」
「へ、変?いつも?」
 そんな変な顔をいつもしていただろうか?何より、雲雀とは会長就任以来会っていない筈だ。
「この前の全校朝礼の時も変な顔だった」
 綱吉は、ああ、と納得する。最近は生徒会長として人前に出ることも多い、こちらが見掛けなくても雲雀は見る機会も多いのだろう。
 しかし、変な顔は心外だ。
「それは緊張してるんです。…そんな変な顔かなぁ」
 最後は独り言だ。こんなに綺麗な人に変と言われると、自身の美醜にあまりこだわらない綱吉でも少しショックだった。
 ムスッと黙り込んでしまった綱吉に、雲雀は顔を近付けた。
「え?な、なに?」
 ドキリとする。綺麗な人は近くで見ても綺麗だ。
「笑いなよ」
「はいぃ?」
 唐突な要求にいきなり応えられる筈もなく、呆けた顔になる。
「そうじゃなくて、こう…」
 雲雀はムギュッと綱吉の頬を掴み、笑い顔を作ろうとする。
「ふぎゃっ!?い、いひゃいっい…たいです!」
 首を振り、なんとか雲雀の手を払う。思いきり引っ張られた頬がヒリヒリと痛んだ。

 なんなんだよもう!笑えとか生徒会長になれとか…もうやだ!

 平和な高校生活を送る筈だったのに、何故こんな目に遭わなくてはならないのか。今まで抑えていたものが、涙になって溢れ出した。
「なんで泣くの?」
 誰の所為だよと、怖さも忘れて雲雀を睨む。しかし、彼は困ったような顔をしていた。
「笑った方が可愛いと思っただけなんだけど…」
「へ?かわ…」
 涙は引っ込んだ。怒りも忘れる。顔に血が登って熱くなった。

 かわ、かわ、可愛いって…いやいや、深い意味はないんだろうけど!

 真っ赤になった綱吉。それに興味をそそられたのか、雲雀がまた手を伸ばしてきた。ハッとして、頬を手で隠す。
「ダメ、ダメです!痛いんですよ!だいたい、それじゃ笑えません!」
「そうなの?」
「そうですよ!」
「じゃあ、どうしたら笑うの?」
「どうしたらって…」
 雲雀恭弥という人は、どうも何かズレている。
 綱吉の雲雀に対する認識が少し変わる。
「え〜と、楽しかったり嬉しかったりすれば自然に笑えますよ」
「ふぅん…楽しいっていうと、群れを咬み殺したり…」
「それ、俺は楽しくありません…」
「そう?じゃあ何が楽しいの?」
「ん〜、そうだなぁ…」
 たくさんあるのだが、いざ訊かれるとなかなか出てこない。しかも、考えているうちに予鈴が鳴った。
「あ、俺、行かないと…」
 少し残念な気がした。綱吉は、もう少し雲雀と話してみたいと思い始めていた。しかし雲雀は引き止めない。風紀を預かる者としては当然だろう。その代わり、意外なことを提案してきた。
「続きは明日にしよう」
「へ?続き…?」
「うん、明日の昼休み、またここにおいで」
 綺麗で怖くてちょっと感覚がズレた人。生徒会と対立しているのだから、こんな風に会うのは駄目なのではと思ったが、おいでと言われたことが妙に嬉しくて、綱吉はこくりと頷いた。

「はい。また明日」

 来た時の陰鬱な気持ちはなくなり、フワフワと浮きだった気持ちで、綱吉は屋上を後にした。





 雲雀は屋上で綱吉と別れた後、執務室として使っている応接室に戻った。
 室内には雲雀の他にもう一人、副委員長の草壁哲矢がいる。
 草壁は緊張していた。彼は雲雀の腹心であり、この傍若無人な上司の言動には慣れていた。その草壁でも今の雲雀には尋常ではない何かを感じていた。
 雲雀はいつになく真剣で、緊張していた。生徒会と何かあったのだろうか?今の会長になってから、目立った小競り合いはないが、六道骸がいつ、なにを仕掛けてくるか分からない。
「哲…」
 しかも、あの雲雀がどうも言い倦ねている様子。草壁はますます緊張感を高め、彼の言葉を待った。
 そして…

「女の子が楽しいとか嬉しいとか思えることって、なに?」

 という質問に絶句する。
 それは、思っていたこととあまりにも違った。草壁は一瞬、意味自体が理解できない。
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