◇◇

□生徒会長の苦難と恋
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「会長、終わりました!」
「こっちも終わったぜ、ツナ」

 二つの声に前を見れば、少年が二人、やり終えた書類を手に立ち上がるところだった。
 会計の獄寺隼人と書記の山本武。骸が見つけてきた優秀な人材だ。獄寺は何故か綱吉を異常に慕い、同い年にも関わらず常に敬語だ。しかし、大変頭が良く、雑務の殆どを片付けてくれる。山本は頭の出来は綱吉とどっこいなのだが、気さくな人柄でツナともすぐに打ち解けた。男女共に人気が高く、人望が厚い。
 強制的にやらされている生徒会長ではあったが、役員には恵まれていた。だからこそ、綱吉は疑問に思うことがある。

 なんで俺を会長にしたんだろう?

 はっきり言って、綱吉はお飾りの会長だ。今も重要ななことは骸が決めて、執り行っている。綱吉の仕事は言われるままに書類へとサインしたり、公の場で渡される原稿をそのまま読んだりするだけの所謂、傀儡政権なのだが、それにしてもだ。あの骸が、原稿に振り仮名を振らないと心配な人間を会長に据えるだろうか?

 扱いやすいと思われた?でもあの人だったら優秀だけど、自分の言いなりになっちゃうような人、何人か居そうなんだけどな…

 実際、骸にはそういった取り巻きが数人いる。しかしいくら考えても答えは見つからず、骸に訊いても、その辺りは上手くはぐらかされてしまう。
「ボス、次はこれ…」
「あ、うん」
 凪が次の書類を用意してくれる。綱吉は疑問を一時頭の隅に置いて、書類の束を片付けてしまうことに専念することにした。





 生徒会長になってから半月程が過ぎたある日。綱吉は一人、廊下をトボトボと歩いていた。最近お昼時は生徒会のメンバーか、京子と一緒だったのだが、元々皆同じクラスではないので、時折こうして一人になってしまう。
 綱吉にはクラスに友達と呼べる者がいなかった。生徒会長になる前は仲良くしてくれた子もいたのだが、なってからはそれとなく避けられてしまっている。要するに、生徒会とも風紀とも関わり合いになりたくないのだろう。
 嫌がらせを受けている訳ではなく、無視されている訳でもない。ただ、距離を置かれているだけなのだが、その微妙さが耐えられず綱吉は教室を出た。いっそのこと、一人きりになれる場所に行こうと校内をさ迷っているうちに、屋上へと辿り着く。
 屋上は以前、京子と一緒に来たことがあったが、そことは違う棟だ。
 扉を開けると、空の青が目に入る。風も心地良く、幸い誰もいないようなので綱吉はここで昼休みを潰すことにした。
 屋上の端まで行き、防護柵の金網に手を掛ける。下にはグラウンドで遊ぶ生徒達。遠くから楽しげな声が響いてくる。
「なぁんで俺、生徒会長なんかになっちゃったんだろ」
 ぼーっと空を眺めながら呟く。勿論、空は何も応えてはくれない。その代わり、返事は耳元で返ってきた。

「あのパイナップルの口車に乗せられるからだよ」

 息が掛かるくらい近くで聞こえた声。綱吉の全身が驚きに震えた。

「ふひゃぁぁ!」

 奇妙な悲鳴を上げて、飛び上がりながら振り返る。
 先ず目に入ったのは黒。そして風紀の腕章。そして綺麗な顔。
「ひ、ひひひ…」
 恐怖と驚きに腰が抜けた。その場にへたり込み、ひ、を繰り返す口がようやく目の前の人物の名前を呼んだ。

「雲雀…恭…弥、さん」

 会長就任以来、雲雀と顔を合わせることはなかった。最初は会ったら咬み殺されるとビクビクしていた綱吉だが、広い校内で学年も違う人間とそうそう会うこともなく、うっかりこの危険な存在を失念していた。

 か、かか、咬み殺されるー!?

 逃げなければと思うのだが、腰は抜けたまま、力が入らず這うことすらできない状態だ。
 真っ青になって震える綱吉に、雲雀は軽く息を吐いた。
「別に何もしないよ」
「ふぇ?」
「お飾りの生徒会長を咬み殺しても仕方ない。それに、君は今群れてないしね」
「む、群れ…?」
 言いかけて、雲雀が群れが嫌いという情報を思い出す。

 本当に嫌いなんだ。一人でよかった…のかな?

 何はともあれ、当面咬み殺される心配はないようだ。しかし、一旦抜けた腰はなかなか立たず、綱吉はこの恐ろしい風紀委員長を前に、まったくの無防備だった。
 雲雀はそんな綱吉の、強張った顔を覗き込む。
「ねえ、何故パイナップルは君みたいな草食動物を会長にしたのかな?」
「…は?パイナ…プル?」
 何故生徒会長にさせられたのかは、綱吉の方が知りたいくらいだ。それよりも、パイナップルが何なのかが分からずに、綱吉は首を捻る。

 パイナップルって確かさっきも言ってたよな。でもなんのこと…?

 すぐには分からなかったが、パイナップルの形は何かと似ている気がした。
「パイナップルだよ。分からない?」
「え〜…と…あ…」
 やっと思い当たる形に辿り着く。
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