ハガレン2

□少女が歩み始めた時
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それから、十数年以上の時が流れた。

母親はあれから暫くしてこの世を去った。
父親はそれから人が変わり、あんなに可愛がっていた娘に見向きもしなくなった。
そして、亡き人となった。

ただ一人、残された娘は、思い出の地を去った。


両親を思い出すのが、辛かった。
また生きていく為には、働かなくてはならなかった。

甘えさせてくれる存在がいない中で、ある男を思い出した。
父親がただ一人弟子にした男だった。

「マスタングさん‥ごめんなさい」

唯一、リザを甘えさせてくれようとした存在だった。

けれど、リザはそれを拒絶した。

これ以上、重荷を負わせたくない。
父に託された思いを、ロイに背負わせてしまった。
それはロイの夢に賛同したからだ。
けれど、託された重みを知るリザは罪悪感に捕われた。

「マスタングさん…ごめんなさい」

再び同じ言葉を口にすると、リザは空き家となった家を見上げた。

「さよなら‥」

これからのことは決めてない。
ただこの家にいると、マスタングさんに迷惑が掛かる。
そのことが、家を出る決意を固めさせた。
好きだから、良い風に終わらせたかったのかもしれない。
もしかしたら、恋をしていたのだろう。
ひそかに憧れた兄のような存在に対して。
リザは揺れ動く汽車の中で、初恋が破れたことを悟ったのだった。


明るい未来を無邪気に信じた少女はもういない。
いるのは、両親を無くし、先の見えない将来に不安を隠しきれない少女だ。
しかし、少女は甘える事をせず、一人で生きる事を決めた。
それが当然かのように。

「さよなら‥どうか、お元気で‥」

リザは小さく呟くと、足元に視線を移した。

旅の終着点は決めていない。
だから、行ける所までいこう。
それが終わりのない旅であっても。
そう決めると、リザは席を立った。
今、停車中の駅は、少しばかり大きな街で知られる所だ。
リザは、大丈夫だと自分自身に言い聞かせながら汽車から下りた。
それから暫くして、リザが乗車していた汽車が高らかに汽笛を鳴らし駅を出発し
た。


End.
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