ハガレン2

□tie
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掴み損ねた彼女の手は、二度と掴むことはないだろう。

教会の鐘が鳴り響いた。

鐘に祝福されている花嫁は私が愛した人で、花婿は見知らぬ男だった。

「おめでとう」
「ありがとうございます」

謝辞をのべる君は幸せそうだった。

私が与えられなかった幸せを、見知らぬ男が与える。
男としては最悪の、修羅の道を歩む者としては最高の結末だった。

「幸せになっても良いと言って下さった大佐の言葉がなければ、今日はありませんでした」
「そうか。では、さしずめ私は君ら夫婦のキューピットだな」
「そうなりますね」

ころころと笑う君は普段の姿からは連想出来ないくらいに、綺麗だった。

「君は幸せか?」
「はい」
「そうか」

彼女が幸せなら、叶わぬ願いは胸に秘めるしかないだろう。
彼女が幸せならそれでいい。

「……でも、これで一番の願いは永遠に叶いそうにありません」
「願い?」

彼女は躊躇うように、口にした。

「大好きな人のお嫁さんです」

頬をほんのり朱色に染めて、はにかみながら君は言った。

「君は旦那さんのことを愛してるから、結婚するんだろう?」
「いえ、愛することが出来るかを知るために結婚するんです」

なら、彼女のあの幸せそうな笑顔はなんだったのか。
彼女は愛してもない人と結婚出来るような人間だとは思わなかった。

「私が一番愛してるのはマスタングさん、貴方です」
「彼はそのことを…」
「知ってます。その上で、結婚を申し込まれました」

意外な事実に上手い言葉が出てこなかった。
ありえないと思いつつ、白いドレスに見を包んだ彼女を見つめた。

「……こんな事、こんな日に言う事ではなかったですね」

忘れて下さい、と彼女は一方的に告げると立ち去ろうとした。

「待つんだ」
「何か?」
「私も君のことを愛していると言ったら、どうする?」

彼女は間を置いて、答えた。

「そんなの、ありえません」
「ありえないことはない。君は、それをあの戦いで知っているはずだろう?」
「はい」

彼女は頷き、微笑んだ。

「行くぞ」

伸ばした手には、彼女の手がしっかりと繋がれた。


今頃、会場は大騒ぎだろう。

そんな会話をしながらも、彼女の手は握ったままだった。

きっとこの先何があろうと、彼女の手を放す事はない。


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