ハガレン1
□指輪
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一夜をひときしり愛し合った後に、余韻を楽しむ間も無く帰り支度をしている愛しき人の名を呼んだ。
「リザ」
名を呼ばれた女は、帰り支度の邪魔をするなとばかりに反応した。
だが、そんな反応ながらも体ごと男のほうに向いている。
「これ」
そう言って、男は女の手をとり紺色の小さな箱を渡した。
「これは・・・」
「私からのプレゼントだ。開けてみてくれ」
女は言われるがままに開けると、中にはシンプルな金の指輪が入っていた。
「大佐、これはどういうおつもりで」
「君が私を見失わないように」
冗談めいたように男は言った。
だが、女は生真面目に答えた。
「私が貴方を見失うなどありえません」
「もし見失ったら?」
「その過程自体がありえません」
「なぜ?」
「私が貴方を見失うより前に、私が貴方の楯となり先にいきますから。だから、ありえません」
男は先程とは打って変わって、真剣に答えた。
「ならば、これは君が持っているべきだ。リザ、私は君達を死なせはしない」
「はい」
女は男の決意をあらわにした横顔を見ながら、嬉しくも複雑な心持だった。
なぜなら、女は男の為ならば己の命を差し出すのは惜しいとは思っていないからだ。
だが、男は女のそんな考えを嫌っている。
だからこそ男は、女を生かす為に渡したのかもしれない。
リング(指輪)で女を束縛し、死神へと渡さぬために。
END.