ハガレン1

□どうしようもないこんな時
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「おめでたですよ、おめでとうございます」



と言われたのは、もう一週間も前。

だけれど、大佐には言えずにいる。

かと言って、降ろす気にもならない。

大佐の子供だから・・・。


【どうしようもないこんな時】



「中尉、この資料なんだが」
「はい」

仕事を一時中断し、大佐に言われた資料を確かめる。

「これは・・・」

説明しようとした途端に、気分が悪くなる。

「し、失礼します」

私は口を押さえ、慌ててトイレに駆け込んだ。

おもいっきり吐き、トイレの外に出ると大佐が立っていた。

「大丈夫か?」
「はい。・・・あの、大佐。もし、もしもですよ」
「なんだ」
「・・・いえ、何でもありません。ご心配していただき有難うございます」
「・・・行くぞ」

大佐の斜め後ろを歩きながら考えていた。

もしあのまま言っていたら、なにを口走ったのか。

子供ができたことか、それとも・・・。



それからは、表向きは何事も無いように仕事をこなして過ごした。

ただ大佐が真面目に仕事をするようになったのが変化だった。

だけれど、私は自分のことで大佐のことまで頭が回らなかった。


そしてさらに一週間が経ち、私はある計画を実行した。

その日、私は休暇で何かに制限されることの無い日。

退役願いを明日の朝司令部に着くように投函し、ハヤテ号と共に東方面行きの列車に乗った。

大佐の顔を見ると、決心が鈍りそうでこの日を選んだ。

なのに、なぜか涙が零れてくる。

こうなることを決めたのは、私自身なのに。
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