お題
□友情・切ない系で5のお題
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D其々が往く道
今年も冬がやってきた。
私は黒い喪服に身をつつみ、とある墓に来ていた。
墓は伊沢吉成のものだった。
「早いなぁ、お前がいなくなってもう二年だ」
「向こうで元気にしてるか?」
「こっちはみんな元気だよ、高村さん達が旅行に行くんだって」
「私は行かないけど、行ったらお前に会えなくなるだろう」
「代わりに、今度子供夫婦を誘って久しぶりに二家族揃ってバーベキューをしないかって話になったんだ」
「楽しそうだろ?」
「‥お前も参加するだろう?姿は見えなくとも、一緒に」
「答えは聞くまでもないよな?」
「‥そろそろバスの時間なんだ」
「じゃあ、またな」
私は線香の入った袋を持ち立ち上がった。
「今日も寒いな‥」
体を小さく震わせた。
伊沢 吉成が死んで二年が経っていた。
人々は彼の死を悲しみ、悔しんだ。
だが、彼の妻は気丈に振る舞い彼を見送った。
多くの人々はさすが彼の妻だと感心した。
そんな彼が愛した妻はその十六年後、死んだ。
伊沢、行こう――
それが彼女が最後に残した言葉だった。
彼女は幸せそうに微笑み息を引き取ったと、看取った者は言っていた。
End.