ハガレン1

□星霜-SEISOU-
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あの、大佐」
「なんだ?」
「もう一度だけ、名前で呼んでいただけませんか?意識的にではなく、無意識に…。
無理でしたら、結構ですので‥」

遠慮がちに彼女が言う。
彼女は私が名を呼ばない理由を知っている。
だから、遠慮がちに頼むのだ。

「リザ…」
「ありがとうございます」
「礼などいらないよ。無意識に呼んだのだから」
「そうですね。でも、嬉しかったので‥」

あっ、と言うように彼女は口元を抑えるがもう遅かった。

「嬉しいのか‥」
「すみません、不謹慎ですね」
「中尉」
「はい」

微妙に緊張感を漂わせて返事をする彼女は、叱られると考えているのだろうか。

「リザ…‥と今だけ、呼んでもいいか‥?」

幸せになってはいけない。
そう決めたのは自分だ。
その為に最愛な人を巻き込んだ。

私を
怨んでもいい。
恨んでもいい。

なのに、

「はい」

と彼女は私を許す。

「ありがとう、リザ」

その名は彼女との距離を縮める。

「リザ、側にいてくれ」
「はい、貴方が望むなら‥」

伸ばした手の先にある彼女を包もうと、手を伸ばした。

「リザ‥」

今だけ、呼ばせて欲しい。
何もかも幸せだったあの頃のように。

End.
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