ハガレン1

□新年早々
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新年を迎えた。
といっても、格別な何かが起こるわけではない。
今日は昨日のつづきなのだから。
新年になっても、休みはない。
むしろ、年が明けたと騒ぐバカ共の警戒と事後処理で忙しいくらいだ。
そんな中での唯一の楽しみがある。

未だ光輝く、司令室の時計が0時を知らせた。


「中佐、明けましておめでとうございます」
「おめでとう」
「今年も宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しく」
「改めて言うと、照れますね」
「そうだな」

照れ臭そうに少尉が笑う。
つられて私も笑う。

これが私の毎年の楽しみだった。
少尉と共に年を越せるのが。

「今年は、少し上に行こうかと思ってるんだ」
「そうですか。なら、今年こそ逃げ出さずに、部下達を楽にしてくださいね」
「ぜっ、善処するよ‥」
「期待してますね」

決して笑ってない目を見つつ、私は冷汗を少しばかりかく。
本当に少しだけ‥。

「それにしても、毎年中佐と過ごしてますね」
「そうだな」
「少佐が父の弟子だった時も」
「だな」


まだ私が現実を知らなかった頃。
甘い夢を見ていられた時代の話だ。
普段なら早々に寝付いてしまう家が、年を越すその日だけは遅くまで起きている
のだ。
私も普段よりも長い時間を、先生の元で過ごす。
先生の側にいるだけで、学ぶべきことが発見できた。

「ロイ、陣を上手く丸に書くには練習あるのみだ」

という話を聞けるのも、酒が少しばかり入った先生しかありえなかった。
普段の先生が無口なので、酒を飲むこの年越しがチャンスなのだ。
それに…。


「君と居たかったからね」
「またご冗談を。貴方は父ばかり見ていたではありませんか」
「それは、照れ隠しだよ。私も若かったから、女の子にどう接していいのかわか
らなかったんだよ」
「今は…いえ、気にしないで下さい」

今は手慣れたと言うつもりだったのだろうか?

「君はどうだった?」
「私は、新年に少しだけ心弾ませました。新年だといつもより賑やかでしたから

「私がいたからだろう」
「どうでしょうね」


少尉はクスクスと笑う。
こんな機嫌が良い君をみるのも、年を越した日ならではだった。

「中佐、事件ッス!」


こんな幸せな時間を壊したのは、金髪のヘビースモーカーだ。
慌ただしく戸を開け、礼儀などなってない。
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