ハガレン1
□シンデレラ(前編)
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リザは父と二人暮しだった。
だが、父は仕事で長期に渡り家を空けることが多くいつも一人になる娘が不憫だった。
しかも今度の仕事は1年以上、家に帰れそうにない。
そんな娘の為にも父は、再婚をした。
リザには母と兄、姉が出来た。
新しい母の名はラスト。
兄の名はグラトニー。
姉の名はエンヴィー。
と言った。
幼い頃に母を亡くし、父も余り家に居なかったリザにとっては始めて家族を教えてくれた大切な人となった。
それに対し三人とも父のいる間は、リザに友好的に接した。
「では、ラスト。皆を頼むぞ」
「はい、貴方がお帰りになるまでしかと」
「皆も元気でな」
「はい、お父様もお体をお気を付けて下さい」
こうして、父を乗せた馬車は走り去った。
父がいなくなったその日からリザの待遇は一変した。
リザが持っていたドレスやアクセサリーは姉にとられ、部屋は屋根裏へと移動を要せられた。
「お母様、何故ですか?」
「貴女は私達が幸せになる為のオマケでしかないのよ。可愛がったのはあの人がいたから、いない今ではもう意味がないわ」
「そんな!?」
「あの人に告げ口なんてしたら、あの人共々どうなるかわかるわね?」
冷ややかに微笑むラストは、死をちらつかせていた。
「・・・はい」
どこにも頼る者がいないリザはただ従うしかなかった。
それからリザは、薪割りから洗濯という一切の家事を行うことになった。
『お父様が帰れば・・・』
その想いがリザを動かしていた。
そんな日々が数年が経った。
父は帰ってくるものの、すぐに次の仕事へと旅立つ為にリザの待遇の異変に気付く暇もなかった。
いつしかリザはシンデレラと呼ばれ、リザと名で呼ぶ人は遠く離れた父だけとなった。
この頃のリザもいつしか諦観へとなり、シンデレラと自ら名乗っていた。
ある日、リザはいつものように森へ薪を拾いに来ていた。
薪を拾っていると、見知らぬ男に声を掛けられた。
「お嬢さん、こんな森に一人でくるなんて危ないですよ」
男は胡散臭い笑顔を作っていた。
リザは係わり合いになりたくなくて、追い払おうと冷たくしたが男は一向に引く気配はなかった。
リザは妙に馴れ馴れしいこの男が嫌だった。
早く立ち去りたくて仕方がなかった。
「あの、いい加減にしていただけませんか!」
リザが追い払おうとして言った言葉は、男を追い払うどころか余計に喜ばせた。
「ようやく口をきいてくれた。君、名前は?」
「‥名前を言ったら、どこかへ行ってくれますか?」
男は嬉しそうに頷くと、リザが再び口を開くのを待った。
「・・・シンデレラと言います」
「シンデレラ…灰かぶり姫という名なのか、君は?」
「はい、これで満足ですよね。私はこれで失礼します」
リザそう言いこれ以上男に捕まって、遅くならないように足早と去って行った。
「何をしていたの!」
家に帰る早々お母様に小言を言われた。
「申し訳ありません。いい薪がなかなか見つからなくて・・・」
「シンデレラは何をやらせてものろまだね」
「エンヴィー、言葉が悪いわよ」
「はーい、お母様」
リザは二人が会話をしている最中はじっとその場で黙っていた。
余計な干渉はしない、それがリザにとって一番よい方法なのだ。
「ねぇ、お腹すいたぁ」
グラトニーが大きな口を開き、みっともなく涎も垂らしている。
「何をしているの、早く食事の用意をしなさい」
「はい、只今」
頭を下げると、リザはその場を離れた。
その夜、遅くに一筋の星が流れたことは、誰も預かり知らぬことだった。