「それは困る」
好きだと言ったら速攻で返された。
「俺は今、忍足に片思い中なんだよ」
正直言って、跡部も俺を好いてくれていると思っていたから、ショックは大きかった……、ん?
「……あの、跡部。この学校に忍足って俺しか居らんと思うんやけど」
「ああ、だから、俺は今、お前に片思いしているんだよ。二回も言わせんな。照れるだろうが」
照れると言うが、まったく恥じらう様子のない我が思い人。にやにやと笑う様は完全に悪者だった。そんな顔も好きだと思う自分が疎ましい。
「え、つまりそれって両想いってこととちゃうん?」
「だから、それは困るんだ」
「いや、意味分からん」
彼の考えることは、たびたび俺の理解できる範疇を超える。何故両思いだと困るんだ。困惑する俺を見て、跡部はあくどく笑う。それが片思いの相手を見る顔か! と、言い募ってやりたい。言い負か
されるのは目に見えているので言わないけれど。
「女子が言っていたんだ」
何を、と返すまでもなく跡部が続ける。
「“片思いの時が一番楽しい”って」
だから、俺は今、片思いを満喫中なんだ。
両思いになっちまったら、片思いを楽しめないだろう?
よって、今の告白は却下。まだ時期尚早だ。俺が片思いに飽きるまで待てよ。
つらつらと、言い澱むことなく述べる彼。今ほど彼を理解できないと感じた瞬間はない。理不尽だ。そんな理由で両思いになれない俺ってなんだ。
「いやや、俺は片思いに飽きた。もう事実上両思いなんやから、俺と付き合うて」
我慢できひん。
必死のおねだりを、跡部は迷うことなく却下した。
目の前に餌をぶら下げて、待て、を続けるなんて酷すぎる。
ふてくされる俺に、跡部は悪魔のように囁いた。
「――俺のため、だろ? もちろん聞き入れてくれ
るよな?」
これを惚れた弱みにつけ込むと言わずして、なんと言うのか。
片思いは、甘くも酸っぱくもない。
ピーチ!
end
(2010/08/05)
◇◇
桃色片思い(笑)
お題:確かに恋だったさまより
うぬぼれるかれのせりふ:「俺のため、だろ?」